黄昏時の少女

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 つまり、俺は好きな人が好きだった人の話を聞いているわけだ。  どうにも、落ち着かないし、いまだにいろいろと信じがたい。 「それで、その人と話したこの場所で待ってれば、また会えるかなって思って、ここにいたの」  そういって、俺を見る。  少しの沈黙の後、少し照れたようなすねたような表情で俺を見上げる。 「むー。これで気付かないか」  そのボソッと聞こえた声で、俺は頭をかしげながら自分を指さした。  すると、彼女は照れたようにうなずいた。  そこでまた、しばしの沈黙のあと、俺も自分の話をすることにした。 「その。俺、さ。ちょっと前に事故にあって、昔の記憶がないんだよ」  そういうと、彼女は驚いたように俺を見る。 「だから、あんたの事を覚えてない……ごめん……」 「ううん。大丈夫。じゃあ、学校でうまくいってないのも?」  俺は頷いた。  昔のことはわからない。だから、友人と言われてもピンとこないし、むしろ雰囲気を悪くしてしまう。  だから、壁を作って一人でいた。 「でも、記憶がなくても根本的なところは変わらないよ。君は、私がケガしてるのをみて、絆創膏とか訪台とか持ってきてくれたし」  そういわれて、俺もうなずいた。  怪我って、嫌いだしな。 「だから、君が医者になるって言ったとき。正直ちょっとうれしかった」  これ以上何か語らせると、すべてが終わってしまう気がして、俺は、何かないかと考えて口を開いた。 「そうか。でも、ここであんたと話したのは、今の俺。昔の俺が気になってんのに、そんなんで、成仏できんのかよ」  結局俺は、少し挑発気味に言って止めるしかできなかった。  先延ばしにしようとした理由は簡単で、成仏してほしくないからだ。  許されるとか許されないとか、そういうのじゃなくて、俺は彼女と一緒にもっと話していたい。一緒にいたい。夕焼け以外の景色も見たい。  俺の心を満たしているのは、そんな感情からくる焦りに似た何か。  俺の挑発に少し笑いながら、彼女は口を開く。
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