黄昏時の少女

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「ふふ。なにそれ? もしかして、寂しいの?」  そういうと、俺の顔を覗き込む。  その顔は、言い返してやりたいほど、寂しそうな顔をしていた。 「そりゃあ……さび、しいよ……」  彼女の顔を見て、俺は涙をこらえきれなくなってきた。  なぜ出てくるのかわからない。  好きになった人がもう死んでいたショックか。  好きな人が成仏しそうな寂しさか。  彼女が気にしているのは過去の自分という悲しみか。  きっと、全部だ。 「うん……私も、ね……さびしぃ……」  俺につられたように、彼女も泣き始める。 「わ、私、死んで楽になったと思ってなのに…ひっく…ど、どうして……こんなに…ひっく……つらいのぉ……」 「知らねぇよ! じゃあ死ななきゃよかったろ!」 「うん……しな……なきゃよかった……生きて待ってればよかった……うぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」 死んでしまったことへの後悔が押し寄せてきたのか、彼女は大きな声で泣き叫び始めた。  人通りのないこの防波堤に、大泣きする女幽霊と、静かに泣く男子中学生がたたずんでいた。 「で、でも」  少し落ち着いたのか、相変わらずの上ずった声で、俺を見上げる。 「逝かなきゃ……いけないんだよ」 「本当に逝くのかよ……」 俺の問いかけに彼女はためらいながらも頷く。 「私、過去の君に心を救われた。だから、潔く自殺した。どうにもならないものだったからね」  そういって、立ち上がってテトラポットの上に立つ。 「でも、私が好きになったのは、過去とかそういうのじゃなくって。君自身」  そういうと、赤くなった目を隠すように、俺にいたずらっぽく微笑む。 「……俺も、好きだ」
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