たった一つでいい。

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「俺は、ずっと鷹宮さんの事が好きで、でも好意は伝えるべきものじゃないってわかっていて…でも、俺は…」 「なぁ好きだよさくら。お前が好きだ、愛している。何よりも大事にしたい。守りたい。さくらが傷付く事がない様に守りたいし、もしも傷付いたなら側にいて抱きしめて、もう一度立ち上がれる様に手を貸したい。何よりオレは、お前を幸せにしたいんだ。」 真綿のような柔らかな響きで呼ばれた自身の名前に、さくらは思わず涙した。 愛した人に名前を呼んでもらえるというのは、これ程に幸せな事なのか。 自分の名前がこれほど綺麗な響きなのだと、さくらは生まれて初めて知った。 認めて仕舞えば、もう押し込めた想いを止める事はできなかった。 これまでの経験なんて忘れてしまったかの様に、さくらの口からは純粋な告白が溢れ出ていた。 「俺、鷹宮さんが好き。好きだよ。鷹宮さんに会ってからは、こんなに幸せで良いのかなって思うくらい幸せで、幸せすぎておかしくなりそうだった。俺、貴方が好きで、好きでたまらない。」 声も上げずに涙を零したさくらは触れれば消えてしまうのでは無いかと思う程儚く、鷹宮は何に代え ても守りたいと思った。 愛を知らない、健気で愛しい、可哀想な愛おしい子だと思った。 「まずは、これを受け取ってくれるか?お前の帰る場所に、オレはなりたい。」 鷹宮が差し出した鍵を、さくらは壊れ物を扱う様に慎重に手に取り、大事そうに胸に抱きしめて笑った。 「俺ね、本当はこれがほしくて堪らなかった。」
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