巧者の夜

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 冷静を繕ったけれど一ノ宮もモヤモヤが溜まっているのは同じようである。 とりあえず、部屋を片付けて、落ち着こう。 そう思って一ノ宮は横山がまだ片付けをしている部屋に戻る。 「すいません、もういいですよ、後はやりますから」 「大丈夫、家近いし終電も気にしなくていいから」 横山は片付けをしながら明るく答えてる。 「そうっすか、すいません」 「彼女さんじゃなかったの?」 「えぇ、まぁ」 「お邪魔なら帰るけど?」 「仕事だから来ませんよ」 「そう、寂しいなら私が相手してあげようか」 「別に、寂しいわけじゃあ、長いっすからね」 一ノ宮は慣れない色気をかわそうとしたが、横山は身体を寄せる。 「無理しなくていいよ」 酔いもあるだろうが、一ノ宮は近いぬくもりが心地よく思っている。 しかし、それに浸ると危ないと感じ取ったのか会話を続ける。 「横山先輩は彼氏と会えないと不安になったり疑ったりしますか?」 「うーん、どうかな? 相手にもよるけど敬くんが彼氏だったら信用できると思うよ」 ケンカの後の優しさは沁みているようだ。 「あの、もしかして横山先輩っていい人ですか?」 「ちょっと違うかな?」 横山は身体をさらに寄せ肌を触れさせる。 「え?」 「こういう時はいい女ですねって言うのよ」 「先輩?」 「これからは先輩もダメ」 「それってどういう意味ですか?」 「これから敬くんの側にいてあげるのは私だから」 「だめです、俺には春香が……」 彼女と定義されている名前を出しても横山は退かない。 「それはそれ、私は私」 「これ以上はだめです、酒も入ってるし冷静では……」 「私はだめじゃないよ、敬くんを受け入れてあげられる」 「横山先輩」 「先輩?」 「じゃあ、真実さん」 「うん、それでいいよ」 何かに負けた一ノ宮、2人は抱き合った。
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