仕方がない

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暫くの呼び出し音の後、少し寝ぼけた感じがする敬太が応答する。 「はい、一ノ宮です」 声と相手が分かっているはずなのに名乗り、やはり寝ぼけている様子。 タイミングが悪かったかと不安に思いながら、もしかしての可能性も考慮し相手を確認する。 「あの、私だけど敬太だよね?」 「春香か、着信見ないで取ったから」 モヤっとはしているが機嫌が悪い感じは受けない。 「寝てたの?」 「うん、ちょっと大学のことで疲れてて……」 不安は敬太への心配へ変る。 「調子、悪いの?」 「別に、それより通話なんて何か用事あるんじゃないの?」 促され少し引け目を感じつつ本題を切り出す。 「うん、明日のことなんだけど……」 少し言い澱むと敬太が少々不機嫌に返す。 「何、わざわざ確認? それなら今朝送ったろ」 「いやその……、ごめん、明日急な仕事が入って……」 敬太は不機嫌より落胆に向く。 「そうなんだ……」 テキトーには済ませたくないので事情の説明に入る。 「先輩が担当してるクライアントのシステムがダウンしちゃって、出張中の先輩の代りに私が明日行く事になって……」 「人のフォローじゃあ仕方ないな」 「本当にごめん、せっかく合わせられたのに、今度は私のおごりでいいから」 「いいよ別に、代わりに遊ぶ相手探すから」 「そう……」 「じゃあまた時間空いたら連絡してよ」 「うん、じゃあ」 理解がある相手なのはいいけれど、誰かと遊ぶ相手と不意な仕事の自分を比べると切なくなりつつ終了をタップする。 視界に入る仕事用のバッグがさっさと準備をしろと言っているようにさえ思える。
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