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支配人の男は、天野の間に急いで向かった。
「失礼します。ただいま給仕が足りませんので、わたくしが」
畳の部屋に布団が敷かれ、娘とおぼしき少女が、寝ていた。
息が苦しそうである。
「東峰さん、あなたわざわざいらっしゃったのですか?!ほかの仕事もあるというのに」
「なにをおっしゃります。せっかくたのしみに心音ちゃんが来たというのに熱を出したとあっては。解熱剤と専属医を呼びました。まもなく来ると思われます。また、もしお時間がありましたら、これをお使いください」
それは、『帝都クマママランド』の入園券であった。
「心音ちゃん。きょうはゆっくり休んでね。おっきいお風呂はガマンだけど、これからもっと楽しいことがあるかもしれないからね!」
東峰は、やさしく心音のあたまをなでた。
心音は、汗をかき、つらそうな顔をしながらも、にこりと微笑んだ。
枕のそばに、祭りで買ったお面があるのを東峰が見つけた。
残像が──フラッシュした。
鋭い眼光──面長で───獣。
東峰は部屋をあとにする。
とてつもなくおそろいげな形相。
見るたびに滝のように汗をかく。
夢に出てきた──あれはまさしく。
キツネ──。
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