第70話 【想《おも》い出《で》水牡丹《みずぼたん》】

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    支配人の男は、天野の間に急いで向かった。 「失礼します。ただいま給仕が足りませんので、わたくしが」 (たたみ)の部屋に布団が敷かれ、娘とおぼしき少女が、寝ていた。 息が苦しそうである。 「東峰(とうほう)さん、あなたわざわざいらっしゃったのですか?!ほかの仕事もあるというのに」 「なにをおっしゃります。せっかくたのしみに心音(ここね)ちゃんが来たというのに熱を出したとあっては。解熱剤(げねつざい)専属医(せんぞくい)を呼びました。まもなく来ると思われます。また、もしお時間がありましたら、これをお使いください」 それは、『帝都(ていと)クマママランド』の入園券(にゅうえんけん)であった。 「心音ちゃん。きょうはゆっくり休んでね。おっきいお風呂はガマンだけど、これからもっと楽しいことがあるかもしれないからね!」 東峰は、やさしく心音のあたまをなでた。 心音は、汗をかき、つらそうな顔をしながらも、にこりと微笑んだ。 枕のそばに、祭りで買ったお面があるのを東峰が見つけた。 残像(ざんぞう)が──フラッシュした。 鋭い眼光(がんこう)──面長で───(けもの)。 東峰は部屋をあとにする。 とてつもなくおそろいげな形相(ぎょうそう)。 見るたびに滝のように汗をかく。 夢に出てきた──あれはまさしく。 キツネ──。  
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