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それは、温泉に入っていた月弥たちもそうだった。
このただならぬ異変に、月弥は“妖気の渦”を感じ取っていた。
「月弥さんッ、このガスは」
「スモッグだろうな」
「しかし汚染物質も煤煙もこんな辺境にはなかったはずだが」
「バァカ。こりゃァ、妖怪が作り出したスモッグだよ」
「つまり、これは」
そう──“妖結界”さ、月弥がにたりと口端をあげた。
「こんな高等な術を使えんのはそうそういねぇ。とりまあがろうぜ」
脱衣所から出ると、女性陣の裂帛が轟く。
あわてて外を開けると、裸の女性たちがタオルやら服をからだに巻きながらいっせいに飛び出したのだ。
「あっちゃー」
ひとりは、ちいさく鼻血を出し。
ひとりは、雑念を打ち払い、背中を鼓舞し、
ひとりは、のぼせて失神。していた。
* * *
「東峰さん、これはいったいどういうことですか」
「いったいなにが起きとるんだね」
「すぐにバスを出してくださいッ」
東峰のまえには、一斉に恐怖を抱えた客たちが群がっていた。
そのすがた、穏やかな色はカタチもなく、まるで般若である。
「みなさん、落ち着いてください。ただいま原因を究明中です。だいじょうぶ、外からの救援もただいま手配しました。このホテル内にいればまず安心です。とりあえずそれぞれの部屋で待機していてください」
「そんな悠長なことできるかッ」
「あなたこのホテルで安心だという保証でもあるの?」
「事実、なにが起きてるんだか、わからないんじゃないかッ」
「高いカネ払わしといて、この始末、どうしてくれるッ」
「断固オーナーに抗議してやるわ」
「クフフ──君子豹変。或いは、外面如菩薩内心如夜叉といったところか」
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