第70話 【想《おも》い出《で》水牡丹《みずぼたん》】

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    天井(てんじょう)から、姿なき声が響いた。 「どこまでも(みにく)種族(しゅぞく)よ、人間(ニンゲン)は」 青き(ほのお)がぽつり──空中に浮かんだ。 一同は、声を上げた。 「かくも、欲のままに」 もうひとつ炎が増える。顔をゆがめる人間たち。 「恩義(おんぎ)信心(しんじん)も忘れた生き腐りし“(からむし)”」 その皮──いまにも()いでやりたい気分だ。 炎のなかからあらわれたのは、立派な武装束(ぶしょうぞく)をまとった男。 ただひとつ特異なのは、あたまから、ケモミミを生やしているというところ。 「な──何者ですか、あなたは」 東峰に目を細めるケモミミ男。 「そなた、この眼を見てなんとも思わんのか」 それはついさきほど思い出した──キツネの眼光(がんこう)。 「ではあなたは──キツネ?」 「我、(ほこ)り高き崇高(すうこう)なる【天狐族(てんこぞく)】の家臣(かしん)───」 『空狐(くうこ)』     「空狐さま──ですね。お話をお(うかが)いいたします。どこか二人きりになれる場所は」 「と、東峰くんッ、あああれは、バケモノだぞ?!」 「こうなってしまったのもわたしが原因でしょう。みなさまにご迷惑をかけるわけにはまいりません。わたしが話をしてなんとか(おさ)めます」 空狐は鼻で笑い、緑色(みどりいろ)結界(けっかい)を空中に作った。 「入れ」 東峰は、すこし躊躇(ちゅうちょ)したが、ゆるりと中へ入っていった。    
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