第70話 【想《おも》い出《で》水牡丹《みずぼたん》】

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    浅野はたびたび、月弥の秘めたる“チカラ”に心の均衡(きんこう)を揺さぶられる。 ついさきほどまで、満身創痍(まんしんそうい)で息つくのもやっとのからだであったのに、なぞの少女(しょうじょ)に助けられ、しばらく休んでいたらもはやいつもの荒々しき言動(げんどう)数々(かずかず)。 やはり──人ではないのだろう。 「月弥さん、あの少女()、いったい何者なのでしょう?」 「さァな。なんの因果(いんが)で救われたんだか」 「妙なことも言っておったな」 「あなたが、必要(ひつよう)なのでアリマス、だのなんだの」 「必要?」 「もしや、鈴ちゃんの」 「(とも)の者か?」 「だって、あの少女、(ケモノ)(みみ)を生やしていたでしょう?あれ」 キツネ───ですよね? 「慈空(じくう)(おど)されて、たまらずタスケが召喚(しょうかん)でもしたのか?」 そもそもの発端(ほったん)は、慈空が、鈴なる素性(すじょう)も知らぬ子を、京橋(きょうばし)の村まで連れていけというものだった。 それを引き受けたのは、タスケ──。 慈空にただならぬ恐怖を抱くタスケには、鈴を無事に届けるというのは地軸(ちじく)(くさ)って引力(いんりょく)がなくなってでも、京橋へ連れてゆかねばならぬはず。 それで──あの得体の知れぬ少女を差向(さしむ)けた? 「だとしたら、おれが、必要っていうのには矛盾(むじゅん)がある」 「さよう。守るべきは、鈴のほう」 「鈴ちゃんを差し置いて、月弥さんが必要──というのはおかしいですね」 いずれにしても、早いとこ鈴をその村まで連れてゆかねば──。  
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