第70話 【想《おも》い出《で》水牡丹《みずぼたん》】

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    *   *   * 女湯(おんなゆ)には、鈴と、(れい)のケモミミの少女がいた。 少女は、巻いたタオルを(ひるがえ)し、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)大股(おおまた)を開き、湯を占領(せんりょう)していた。 「ひにゃああ~、なぁンとコリァあ、キモチイのでありましぃぃ」 鈴は、(ひか)えめにちいさくなって、彼女をじっとみていた。 ぴくぴくと、ケモミミが動いた。 キツネ、さん?──鈴がつぶやくように聞いた。 「ん?そうでありますよ。わたしは、コンコーンのキツネさんなのであります」 ぐーっと(うで)を伸ばすと、湯船(ゆぶね)からぷっくりと豊満(ほうまん)でやわらかな風船(ふうせん)が浮かび、鈴はじーっとそれを見た。 「ところで、キミは、どうして、あの人たちといるのであります?」 鈴は、(こうべ)()れた。 「お父さんとお母さんは?」 鈴は、首を(よこ)に振った。 「いないのでありますね。みなしご・・・では、わたしとおなじなのであります」 「え?」 「生まれたときから、親はいないのであります。でも、みんなが、わたしを一人前に育ててくれた。だから、ひとりでも平気なのであります!」 (あきら)めなければ──夢は、夢じゃなくなるのであります♪ 鈴は、頭を横へ(かたむ)けた。  
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