第70話 【想《おも》い出《で》水牡丹《みずぼたん》】

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    ◆   ◆   ◆ ホテル──【紅葉(こうよう)(つや)があり、古風(こふう)和風(わふう)ホテルとして、三年前にできた。月弥たちのいる温泉も【紅葉】の一角(いっかく)である。 筒井(つつい)クン───高身長のスーツの男が、給仕(ページボーイ)に呼び止めた。 「小袖(こそで)()のお客様が足を痛めたらしい。キミの持っている冷却(れいきゃく)スプレーを持って行ってくれないか?」 「わかりました」 「それからキミ、例の客から、『(はしら)に指をぶつけたので慰謝料(いしゃりょう)よこせ』と(おど)されたそうだね」 「はい」 「謝罪(しゃざい)したそうじゃないか」 「・・・はい」 うつむく給仕の肩に、男はそっと手を添えた。 「(ヤツ)はブラックリストに登録しといた。おまえにかわって、警備員(けいびいん)の吉田さんと平塚さんにつまみ出してやった」 「え」 「いいか?ひとりで悩まなくていい。なにかあったらすぐに呼びなさい。つらい目に合わせてしまってごめんよ。()びと云ってはなんだが、パンスターズの観戦(かんせん)チケットを手に入れたんだ。二枚あるからだれか誘って観にいくといい」 筒井は、肩を(ふる)わし、目に(なみだ)を浮かべていた。 「来週から心機一転(しんきいってん)がんばってくれ」 筒井は、はきはきとその場を去っていった。 支配人(マスター)───スーツの男が振り向く。 「県議会の無辛根(むからね)先生が、支配人にご挨拶(あいさつ)したいと」 「あいにくだが、これから天野(あまの)()のお客様が熱を出されたので行かねばならない」 「いやしかし、あのお客様は」 「そうだ、きみは富士見(ふじみ)()へ行って、エアコンの調子を調べてくれないか?なにかあったら私に知らせてくれ」  
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