こたつが怖い

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「こたつになった理由は分からないのか?」 「今日は買い物のために外に出た以外は、ずっとこたつに入ってテレビを見ていたんだけど」 「こたつが好きすぎて融合しちゃったとかかな?」 「そんな小説や漫画みたいな話、あるかしら?」  彼女の声は懐疑的だが、俺としてはそれぐらいしか思いつかない。  このこたつは彼女のお気に入りで、同棲する時に実家から持ってきた物だ。もう大分古いので、買い替えようと提案したのだが、即座に却下された覚えがある。 「ということはだ」  俺は〝こたつが好きすぎて融合した説〟を前提に、解決策を頭の中で組み立てる。 「こたつを嫌いになればいいんじゃないか?」 「無理よ!」  即答だった。かぶり気味にノーと言われた。  でも、このままじゃあ……。 「俺、嫌だぜ、お前がこたつのままなんて」 「わたしだって嫌だけど、こたつを嫌いになるなんて無理よ」 「だって、俺、お前と一緒に手をつないで歩きたいし」 「わたしもよ」 「一緒に映画も観たいし、おしゃれなレストランで食事だってしたい」  わたしも、と彼女が再び同意する。 「でも、お前がこたつのままだと、できないじゃん」  あれ、なんか、これって……。 「これじゃ、俺とお前、死に別れたも同然じゃん」 「生きてるよ、わたし」  そうじゃなくてさ、と俺は言葉を続ける。 「寂しいんだよ。お前はこたつになっちゃったじゃん。俺は人間のままじゃん。そういうの嫌なんだよ」 「じゃあ、しゅうちゃんもこたつになれば……」 「無理だよ。俺、そんなにこたつが好きじゃないから」  頼むよ、と俺は頭を下げた。 「こたつを嫌いになれとは言わない。でも、こたつより俺の方を好きでいてくれよ。人間に、戻ってくれよ」 「…………」  あ、やべ、なんか目頭が熱い。視界もぼやけてきたし。 「頼むよ、お願いだ」  こんなに真剣に頼みごとをしたのは初めてかもしれない。 「しゅうちゃん」  優しい声がした。俺は頭を上げる。  そこに、彼女が立っていた。
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