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「それで? 死神が私の家へ何しに来たの? 私、明日で死ぬの? それなら最後に《まんまる堂》の羽二重餅食べたかったんだけど」
安倍川さんは態度を変えず、こたつの上へ積んであるお菓子を指差す。
「お前の死よりも重要なことはこの家に菓子が多くあることだ」
私はコートとスーツのジャケットを脱ぎ、ジャージを羽織りながらこたつへ入って容赦なくその中にある足を蹴っ飛ばした。
私の財産が目当てとか冗談じゃない。
すでにこたつのスイッチは入っていて温かかった。安倍川さんは一体いつから私の家にいたのか。そもそも死神が暖を取ったりお菓子を求めるっておかしいと思う。
何にせよ――安倍川さんが私をあの世へ迎えに来たわけではないとわかってほっとした。だってまだ死にたくないから。
だけど、こうして目の前に居座られるのも迷惑な話だった。
私はこたつの上に置いていたリモコンを拾い、テレビをつける。ちょうどニュースが流れていた。隣の市で暮らす一家の殺害事件だった。
「世の中には死者が溢れているのに、こんなところで油を売ってていいの?」
画面を示せば安倍川さんは一瞥して、
「我々の仕事、即ち運命は決まっている。お前に心配される謂れはない」
つまらなさそうに言った。
「とはいえ予定に反することも起こり得るがな。例えば先日の台風で引き起こされた山崩れ、生存者が一人いただろう」
「あの状況を生き延びて『奇跡の少年』とか報道されてたね」
他にメディアが求める事件はないのか、というほど連日取り上げられていたから覚えている。
安倍川さんは頷いて、目を伏せた。
「本来ならあれも死ぬはずだったが、人間というものは往々にして運命を変える生きものであるからな」
「死ぬのが次の日に変更されたりしないんだ?」
「その運命が我々に示されることもあれば、そうはならない場合も往々にしてある」
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