死神のサイコアナリシス

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 そういうものなのかと相槌を打ちながら、私はリクルートバッグの中身を取り出す。さっきアパートの集合ポストから取って来た郵便物の中から一番大きな封筒を手にして開封した。出て来たのは、先日介護会社へ送った履歴書が不採用通知と共に返送されたものだった。 「…………はあ」  ハローワークのおじさんが紹介してくれた会社だったのに。猫の手も借りたいほど人手が欲しいんじゃなかったっけ? 話が違う。どこからどう見ても『不採用』の文字があった。何がいけなかったんだろう。面接で心象の悪いことを口にしてしまったんだろうか。  暗くなった気持ちを晴らすため、封筒と書類を片付けてからこたつの上に置いてあった『ティロルチョコきなこもち』の袋を開ける。寒い季節にしか発売されない上にお手頃価格だから見かける度にいつも買ってしまう魔性のお菓子。  一口食べただけで舌に広がる風味にうっとりしていると、干からびた手が袋へ伸びて来た。それは安倍川さんの手で、長い指先で器用に一つ摘まむ。 「うまいな」  包みを開けてチョコレートをしばし味わってから一言、安倍川さんが言った。 「そうでしょ?」  当たり前のように食べ始めたことに一瞬むっとしたけれど、誰かと食べる喜びが久しくて、私はつい気を許してしまう。  それに、相手が不法侵入の人外とはいえ独り暮らしを始めて以来、家の中でこんな風に誰かと話したことがなかったから新鮮だった。何しろ家族にはもう随分会っていない。それは決して距離が(へだ)てているわけではなくて。まともに仕事へ就いていない娘を家の中に置いておくには両親が世間体を気にしすぎていた。  就職氷河期を脱却しつつある昨今、世の中の有効求人倍率は一倍。就職している人が大半なのに、勤め先を見つけることが出来ない私がそんな扱いを受けるのは当然で、仕方のないこと。出来の良い姉がいれば彼らも寂しくはないだろうし。
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