死神のサイコアナリシス

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「……お腹、空いてるの?」  ティロルチョコへ伸びる安倍川さんの干からびた手を眺めながら訊ねれば、彼はそれを口に放り込んでから言った。 「空腹とは無縁だ。我が輩は死神だからな」  思わず袋を握る手に力が入った。 「じゃあ何で食べたのかな、私の《まんまる堂》の羽二重餅を」  低い声で問い詰めても、安倍川さんの淡々とした様子は変わらない。 「食べずにはいられなかったからだ」  確かに《まんまる堂》の羽二重餅には、見ているだけで誰だろうと食べずにはいられない魅力があるけれど。それに心惹かれる死神とはあまりに外見とそぐわない。  そもそも謝らないのか、この死神は。表情一つ変えずに反省の様子もない。 「我が輩にもやらねばならないことがある」 「うん、死神として死神の仕事はちゃんとしなくちゃ。私のお菓子を食べてる場合じゃないよね」  安倍川さんがまた一つ、ティロルチョコの包みを開けて口へ放り込む。遠慮がないにも程がある。 「というわけでしばし居座ることになるが、我が輩のことは気にせず普段通りの生活をするように」 「勝手なことをしておいて勝手なことを言わないように」  リクルートバッグへ入れていたノートパソコンをこたつの上へ置き、起動させる。メールボックスを見れば『選考結果のご連絡』の文字が並んでいた。期待に胸を膨らませて、順番にクリックして開封していく。 「…………全滅」  そのすべてが不採用の結果だった。もう何度も目にしている文字なのに、それでも落ち込む。不採用者には一切の連絡を行わない方式の会社も面接から十日以上経過したものはもう受け入れるべきだろう。未来へ繋がることのない結果を。 「どうして採用してもらえないのかな……」  何か才能があるわけじゃないから?  何か秀でているわけでもないから?  容姿も平凡で、何も特別なものを持たないから?  でも、それでいいんじゃないの? だって、ほとんどの人は、それでも働いているんだから。
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