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「闇は光に帰し、影は穢れと共に消尽せん。払いー給えー清めー給えー」
驚く事に、もう一人の女性は、上着も袴も真っ白の巫女装束に身を包んだ「少女」だ。
祝詞らしい唄を口に出しながら、しゃらんと右手に持った神楽鈴を鳴らしている。
車内は当然揺れている。アスファルトの轍の凹凸が、サスペンションで幾らか軽減されながらも、足元を揺らした。
「払いー給えー清めー給えー」
だが、少女はヒザで揺れを受け止めつつ、祝詞と共に舞い続ける。
今ここで最後にくるりと一回転し、頭上に鈴を掲げると、舞が終わったのか、少女は一息をつく。
「灯(あかり)……」
不意に、薙刀を持った女性に名を呼ばれ、少女は静かに「はい」と答える。
「真智子(まちこ)さん、どうかされましたか?」
「練習熱心ね……。だけど、不意に揺れたりするから──」
正座から膝立ちになり、真智子は灯の方へと向き直る。
その瞬間、トラックは大きな窪みを踏んだらしく──
「きゃっ!」
バランスを崩した灯。
危うく倒れそうになった所を、真智子が受け止める。
「大丈夫?」
「び、びっくりしました……だ、大丈夫です」
「今は、座っていた方が良いわ。立つ時も、何かに掴まっていた方が良いわね……」
この様子は周りの整備員たちの目にも入っていたらしく──
「灯様、御怪我は!?」
「大丈夫ですかな……神子(みこ)様」
「灯は、大丈夫です」
無邪気で屈託の無い、真に無垢な顔が、周りに向けられる。
不意に顔に近付けた右手、それに握られた鈴がまた、しゃらんと音を立てた。
(私たちがこれから負う穢れを祓う為、とは言え──)
受け止めつつ、真智子の隣に座る灯。
年齢は十歳前後と言った所だろうか、無邪気さも年相応のものと言えた。
しかし、真智子の表情は複雑である。
これから自分たちが戦いに赴く所に、年端の行かない少女がついてきているのだ。
「真智子さん、やはり何か?」
「ええ。何かあった時、ちゃんと貴方を守れるかどうかを──ね」
やはり不安はある。ましてや、相手は非道を平気で走る者なのだから。
「大丈夫ですよ茅野(かやの)殿。神子様は御神と我々の加護がありますからな!」
「それを貴方が言う──? ともしび機関の整備中に感電してた貴方が──?」
「うはぁっ!」
その瞬間、コンテナ内に爆笑が巻き起こった。
車列は一路、広島へ──
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