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拓は何となく孝行のことが少し分かったような気がした。
自分の存在を確認する行為。
それが孝行にとっては会話なのだろう。
だから何でもいいから応えて欲しいのだ。
同じ部屋にいるのに、目の前にいるのに、返事が返ってこないなんて自分の存在を無視されているに他ならない。
拓は無視しているつもりはなかった。
返事をしようと思っても、どう応えるべきか考えているうちに孝行は次の話題に移ってしまう。
この人は他人の返事は待っていないのかと思った。
自分が喋りたいだけなのかと思った。
だから黙れとは言わなかった。
勝手に好きなだけ喋ればいいと思った。
それに、仲良くなったところできっと辛いだけだと感じた。
拓はみんなと仲良くなんて出来ない。
一対一でしか向き合えない。
友達として相手のことをちゃんと理解して、気遣って、お互い気分よく付き合えたらと思う。
仲良くなると決めたら集中して心をかけてしまう。
見返りを求めようなんて思わないけれど、相手に悪気はなくてもぞんざいにあしらわれたりすると酷く落ち込んでしまう。
だから孝行の沢山いる友達のうちの一人になるのは拓には向いていない。
上手く応えられないのはタカユキのせいでもあったけれど…。
確かに、話しかけられているのに返事をしないのは良くなかったなと拓は改めて思った。
自分の存在を認めてもらえないのは本当に辛い。
自分でさえ認められなくなる。
拓も自分を認識するために繰り返していた行為がある。
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