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孝行は勢いよく起き上がり背中から拓を抱きしめる。
あまりにも一瞬の出来事で拓は驚き以外の感情が付いてこない。
拓の首筋に顔を埋め耳元で呟くように孝行は言う。
涙声だ。
「ありがとう」
そして突然の大声と同時に拓は床に放り出された。
「ぅわ!驚いたやんか!」
孝行は叫んだままの凄い形相で固まった。
床に突っ伏した拓は反動で振り返り負けずに叫ぶ。
「驚いてるのはこっちだよ!」
泣き出すわ、いきなり抱きしめるわ、突然床に投げ出されるわ!
なんなんだよ!
拓は心の中で捲くし立てたが孝行の顔がおかしくて思わず吹き出した。
「顔!」
孝行は自分の行動に驚いたらしい。
とりあえず変な誤解だけは与えてはいけないとしどろもどろになる。
「違う!違うやん!それちゃうし!俺はそういうことじゃない!だ!」
何が言いたいのか良く分からない。
拓はツボに入ってしまい笑いが止まらなかった。
孝行は初めて見る屈託のない子供のような拓の笑顔に心が満たされた。
なんて可愛いのかと胸がくすぐったくなる。
二人は一緒に笑った。
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