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全寮制の男子校。 一応格式ある名門校らしいがその面影は古い校舎にしか残っていない。 超進学校に落ちた生徒が集められる秀才ばかりのクラスがあるが、ほとんどが何らかの理由で地元から離れざるを得ない曰く付きの集まりだという噂である。 その入寮日、永遠は静かに宿り始めた。 秋月拓は訳あってここに入学した生徒の一人だった。 拓は東堂皐月がこの学校を選んだので付いて来た。 この時の拓にとって皐月は生きる理由であり、その全てだった。 皐月には大切な人がいると伝えられていた。 『今は会えないし多分嫌われている』 そう皐月は話していた。 拓はその人と想いが通じ合えば良いのにと素直に思った。 皐月が幸せになれば自分も嬉しいと真実そう思ったのだ。 だから願いは叶わないことは分かっていたけれど、三年間とりあえず傍にいられるだけで良かった。 相手にしてもらえなくても皐月の傍にいることしか選択肢がなかった。 しかし拓のささやかな願いは寮の部屋割りを確認した途端崩れ去ることとなる。 寮の二人部屋。 皐月のルームメイト。 佐々原弥生 それは皐月の大切な人の名前だった。 詳しいことは話してくれなかったが、助けてやれなかった、守りたい、そう語っていたのを覚えている。 偶然か目論みか、そんな想い人と同じ高校に入学し同室になったのだ。 拓の心はざわついた。 皐月が幸せならそれでいい… そんな想いは偽善だと、報われない想いを美化する綺麗ごとだったと、胸の痛みが醜い自分に訴える。 自分は所詮誰からも必要とされない、居場所などどこにもない人間だと、また思い知らされる。 皐月の傍で、皐月以外自分を知らない環境で、穏やかに新しい生活を始められると思っていた。 少しは変われるかもしれないと願っていた。 絶望的な気分の中、どこをどう歩いたのか気付けば自分の部屋の前にいた。 部屋の扉を開けるのが憂鬱で拓は我に返った。
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