1.魔法使い

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「ジン・リッキー。」 「私はソルティ、ああ・・・、いや、ウォッカと炭酸を使わないもので、あまり甘く ないものを。ロングがいい。」 随分と消去法なオーダーを意外に思っていると、気付いた犬神が肩をすくめた。 「あまりこういうところに来ないもので。毎回同じものを飲んでいたら、先日ウォッカで悪酔いしたので、控えている。」 慣れていないのか。これはまた意外だ。 「さっきの店員、気づいてなかったのも暗示ってやつか?」 「まあ、そうだな。」 「若手君と同じ?」 「厳密に言うと違う。」 犬神がチーズの盛り合わせに手を伸ばした。 なるほど、ブルーチーズが平気なクチか。こちらは苦手なので、全部食べてくれればいい。 「防衛省の彼には細かい条件付けをした。だから、彼だけを目標としか精密な暗示をかけた。逆に店員の彼は、別に彼を目標にしてかけた訳じゃない。私が纏っている暗示に中っただけだ。」 「もう少し分かりやすく。」 「スプレー式殺虫剤と蚊取り線香みたいなものだ。」 「おお、分かりやすい。」 科学がめざましい進歩を遂げた現代でも、夏になれば蚊は湧く。そしてなぜか日本人は、当初の蚊取り線香とまった異なる成分となった蚊避けの薬品を今でも蚊取り線香と呼ぶ。 「おい待て、あんた蚊取り線香みたいに振り撒いてるのか。それ色々大丈夫なのか。」 「健康被害を心配しているなら問題ない。すでに影響はないと証明されている。」
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