1.魔法使い

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「いや、でもだなぁ。」 「そのまま歩くと少々目立つ。仕方がない。」 「別に今でも目立つと思うけどな。」 なんせこれほどの美人だ。今以上に目立つって、いったい何を隠しているのだ。 「待て、君に私はどういう風に見えている。」 「あ?見た通り、きれいな顔のいい男だよ。色男って感じじゃないな。堅物が顔に出てる。」 ちょっとした妬みも込めて言ってやると、犬神は顔をしかめた。 「それは少々・・・、問題かもしれない。」 「え?」 「私が通常纏っているものは、私を見るものに可もなく不可もなくと感じさせるようにするものだ。君が私に対して抱く印象は、意図しているものと異なる。私の暗示に問題があるのか、・・・君に耐性があるのか。」 「耐性?」 「暗示というのは、別に精神に強制するようなものではない。むしろ、よそに目を向けさせて誤魔化すようなものだから、何度もかけられれば耐性がついて、本来見たいものに目を向けられるようになる。」 「つまり、俺がこれまでに何度も暗示をかけられてる可能性があると…?」 「かなり強いものを数度でもいい。私が今纏っているような強さでは、そうそう耐性はつかない。」 「はあ!?ちょっと待てよ、そんな覚えねえぞ。いや、気づかないか、そうじゃなきゃ意味ねえもんな。」 なにか変だと思われるようではかける意味がない。 自分が知らないうちになにかされていたかもしれないというのは、少々気持ち悪い。 だが、今言及するべきはそこではない。 清水は、犬神と同種の人間には、今まで会ったことがないと思っていた。犬神のどこかずれた言動から、普通の人間と普段接することはなく、今回は社会見学のようなものなのだろうと、勝手に考えていた。 だが。 現に清水には耐性がある可能性がある。つまり、以前に犬神のような人間と接したことがある可能性があるだ。 「なあ、犬神さん。あんたたち、普段はどこでなにしてるんだ。」 興味本位から、日本の治安を預かるものとしての疑問に変わったことに気付いたのだろう。 犬神も、一瞬目を見開いてから顔を引き締めた。 「そうだな・・・。そういう話をしようか。」
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