1.魔法使い

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「いい加減にしてくださいよ室長、ちゃんと紹介してください。どちらかからの出向の方ですか?魔法使いとか馬鹿な事言ってないで、そういう情報をください。」 「やだなぁ、別に馬鹿なことじゃないよ。魔法使いでなければ超能力者。この人たちにとっては秩序と摂理の上に成り立つ事象でも、僕たちにとってはただの奇跡だ。理解も感覚も及ばない上に呼称もない力なんて、魔法、超能力としか言いようがないよ。」 「はい・・・?」 この人、ついにおかしくなったかと思った。 清水は人を魔法使い呼ばわりすることそのものを馬鹿な事と言ったのだ。なにを魔法と呼ぶかになんて欠片も言及していない。 いや、その前に。 そもそもどうして上司はこの青年を魔法使いなどと言い始めたのか。 我々が行うこと?この人たちにとって?事象?奇跡・・・? 自分の顔が強張るのを感じた。 まさか、まさか・・・? あらゆる不思議が科学の基に解明されている今の世で、そんなことがあり得るのだろうか。しかし、二人の会話を繋ぎあわせると、他に考えようがない。 「あの、室長があなたのことを魔法使いと呼ぶのって・・・、」 ぎこちなく顔を向けた先、犬神氏は平然と言ってのけた。 「我々は、君たちとは異なる摂理に生き、異なる力を行使する。自らが理解できないそれれを、理解も行使もしえないもの、という意味で魔法と表現しているのだろう。そうであるなら、一理はある。不愉快であることに変わりはないが。」 有史以来2200有余年。 科学はついに、ありとあらゆありとあらゆる不思議を解明するに至ったかに見えた、が。 警察庁の片隅、何でも屋と称される部署の一番下っ端、清水裕一。 同期の失恋話に付き合わされて二日酔いで 頭が重いだけの、いつもと同じ朝。 科学の輝きの中に姿を隠した不思議が、ずっと隣にいたかのような顔でしれっと、その姿を現した。
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