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無人タクシーに乗り込み、行先を入力して清水は息を吐いた。
隣に座る犬神氏は平然と窓の外を眺めている。
あの後、猛然と問い詰めた部下に対して、神谷室長が放った言葉。
「犬神さん、とりあえず一か月くらいうちで君といっしょに行動してもらうから。詳しくは彼に聞いてね!」
おっと会議の時間が、などとわざとらしく腕時計を覗き込んで去っていった上司が恨めしい。
そもそも魔法使いという情報しか与えられていないというのに、詳しくとはこれ如何に。簡単な説明はしたつもりなのだろうか。
「あー、とりあえず、・・・どうしましょう?」
おそるおそる話しかけた犬神氏は犬神氏で平然と言い放つ。
「君は君の仕事をすればいい。私は勝手に見学させてもらう。機会があればこちらの説明もさせてもらおう。」
機会がなければしないのか、と思った清水はきっと悪くない。
自身の精神の安定のために説明の機会を作るべく、昼までにと頼まれていた防衛省へのお使いの予定を繰り上げた。防衛省までタクシーで十分弱。とりあえず、そもそもなぜ自分に張り付くことになったのかくらいは聞けるだろう。
「ところで、君は防衛省に何の用なんだ?」
我に返ると、外を眺めていたはずの犬神氏がこちらを向いていた。
「あ、はい、先日警備局内のうちを含む三部署で合同で当たった案件があったのですが、その際にこちらの不手際で防衛省にご迷惑をお掛けしましたので、その後の進捗の説明に。・・・まあ、要は頭下げに行くだけです。」
「三部署合同なのに、なぜ君だけが頭を下げに行くのだ。」
「自分が一番下っ端ですし、何よりうちは何でも屋ですから。」
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