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「お聞きになったか? 昼日中だというのに、都の外れに妖が群れを成して現れたそうだぞ」
「聞き及んだとも。陰陽師が2人、討伐に向かったそうではないか」
「先ほど有楽殿が戻られて、陰陽頭に仰せられたことには、2人とも怪我を負ったということだ」
「なんと? 誰が向かったにせよ、それはただ事ではないな」
「私が聞いたところでは、宇山殿と冬霞が出向いたということでしたが」
「なんですって。では、お怪我を負われたのは宇山殿か」
「ということになりますな。これは宇山殿の御身が案ぜられる。見舞いの手配をせねば」
「それにしても、このところ宇山殿には災難が耐えませぬな?」
「やはり冬霞なぞと関わるからでは」
「せっかく聡明な御方だというのに、なんと勿体のう話よ」
「有楽殿のお指図あってこそでしょう。さもなければ斯様な男に積極的には関わりますまいて」
「違いない。やはりあれは災禍の中心か」
「厄災の児と呼ばれるも道理よのぅ」
… … ◇ ◆ ◇ … …
「父上!」
宮廷から帰邸するなり、国実は断りもなく父の部屋に押し入った。
文机に向かって書き物をしていた惟為が、さすがに驚いた様子で振り返る。
「何事だ、騒々しい」
「宮中で公達どもが噂しているのを耳にしました──都の外れに妖が現れたというのは真ですかっ」
「そのように聞いている。だが案ずるな。時枝陰陽頭様が策を講じてくだされた。もはや我らが憂うことは何もない」
穏やかな微笑みを浮かべて告げられる。
国実は身体の奥底から怒りが込み上げてくるのを自覚した。
左頬が細かく痙攣するのを留めようと、強く歯を噛みしめる。
「現場に向かった陰陽師が2人、大変な怪我をしたと聞いております。恐らく宇山晟雅殿と、冬霞紫翳殿のことかと」
「さもあろうな。それがどうした?」
「都の危機に、彼らは命を賭したのですよ。父上は右丞相のお立場から、彼らを労ってさしあげるべきではないのですか」
惟為が眉をしかめて溜息を吐く。
「左様な真似を我らがせずとも、おのおの好きに宇山殿を見舞おう。それで何が不足と申すのだ」
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