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BAR・HideAway
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~その晩~
「──ったくよぉ…ヒック…急に呼び出してきて何事かと思えば…くっだらねぇ…ッ…ウック…」
「まあ、そんな事言わずに聞いてやればいいだろうに。そういうお前こそ僕を無理矢理に叩き起して外へ引っ張り出したろうが」
今、俺の両サイドでウィスキーグラスを握り締めて天使と悪魔のように真逆な言葉を言い合うのは、保育園からの付き合いである小金井 玉露(コガネイ ギョクロ)くんと御手洗 釜伸(ミタライ カマノブ)くん。
このへべれけになった口の悪いお洒落なオラオラが玉露…通称“キンタ”。見掛けも派手なら性格までド派手に育っちゃってワンブロックの髪型が良く似合うムカつく野郎だ。
んで一方は、キリッと切れ長の澄んだ目に似合うやたらオシャンティーな眼鏡をかけた釜伸。このサラサラと纏まった特徴のない黒髪が嫌味なほど良く似合う男。
…いい所のお坊ちゃんのクセに俺達みたいな自由人とつるんでる不思議なヤツって言葉も付け足して。通称“トイレ”…か、“カマノ”ね。
あ、たまに“おカマさん”って呼ぶ人が居るけど発音を間違えると結構本気で不機嫌になるからそこんところ気をつけてあげないとヤラレマスから取り扱い注意。
触るな危険。
…そして──。
「それで?コウ…お前が去年の冬辺りだか年明け辺りだか騒ぎ始めたその胸の高まりは今日で最高潮まで上がったとでも?」
「そーうかもしんないんだよカマノぉおおおう!昼間のあの瞬間からずーっとバクバクしてるもん俺!バックバクだよ!バックバク!!」
そう…俺だよ俺。
なんとなーく保育園終わらせて、なんとなーく小学校行って、なんとなーく中学勉強して、なんとなーく高校で青春もどきをした俺ね…うん。
それなりに男女関係なく遊んだし、初恋らしいものも終わらせて普通に恋愛だと思う付き合いもしてきたこの俺が、ちょっとよく分かんないモン拗らせたっぽいんだよ。
だから今、こうしてどういう事だか説明してる訳だけどさぁ…。
「…つーか何だっていいけどよォ…なんでお前の甘酸っぱい片想い話を仕事終わりでクッソ疲れてるこの俺様と、思春期の糞ガキを相手して眠さMAXのコイツ(釜伸)が聞いてやんなきゃなんねぇの?」
…何この塩対応ッ!?
しょっぱ過ぎてカラいんですけど?!
「…ぃや、…もうごめんて…」
“明日も撮影だから朝早ぇんだよクソが”とボヤく玉露に“なら浴びる程飲むんじゃねェア☆”と言ってやりたい。
…まあでも?今それ言ったら多分プンスカして帰っちゃうから?何があっても言わないけど…。
俺、こういう時“だけ”はちゃんと空気読めちゃうし?損得勘定大事。
「いや、僕を呼び出したのはツユであってコウではないだろう。それに思春期の子供達はお前と違って捻くれていないから純粋で可愛いぞ?」
「いーや、糞ガキなんてただうるせぇだけでなんっの可愛げもねぇから!エーゲンの妹見てみろ!元からギャーギャーうるせぇガキだったのに思春期突入して更にうるさくなったじゃねぇか!」
「いや、お前は何もわかってない。確かに抹(マツ)は騒がしい子だが、僕に言わせればそこで無関係決め込んでる出来の悪い兄貴の方が充分にうるさい。そもそも僕はこの一連の話をかれこれ4ヵ月程前から毎日電話で聞かされ続けてるんだからな」
「いやいやいや二人共何言っちゃってんの?俺は普通にキンタが一番うるさいと思いまーす」
「んだとッ!?」
バツが悪くなった瞬間は華麗な身の躱しで矛先をねじ曲げるに尽きるよね。だってしょうがないじゃん、俺だってこんなの予想外だったんだし。
半年前のあの日は寝不足で丸一日撮影して、やっと終わって帰ろうとした時にバイト先の先輩に絡まれて朝まで付き合わされてたから結構ベロベロ…
いや、レロッレロだったし…。
そんな状況だったから無垢な子供と出会ってすごぉく輝いて見えたのかもしれないけどさぁ…。
それが間違いなのかそうじゃないのかずっと気になるくらい一瞬で意識を持ってかれたあの目をもう一度見たいと思うのは普通の事なんじゃないの?
だって惹かれまくっちゃってるもん俺。
もうね…ドキがムネムネなの!わかるかなァ。
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