【side:玄】

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「まあ…だがコウ。お前はもう教師になったのだから得意の“なんとなく”は人間を相手にする以上通用しないという事を忘れるなよ」 「え?あー…うん。わかってるよ…」 「いや、お前はわかっていない。頼むからちゃんと聞け。お前がどんな恋にうつつを抜かして浮き沈みするのも結構だが、相手は思春期の子供で敏感な時期だ。…無垢な子供を相手にするという事は、お前の言動一つで何色にも染まるんだからな」 「わかってるって」 ホント、釜伸はうるさいなぁ…。 毎回毎回保護者みたいに俺の監視してアーでもないコーでもないって言っちゃってさ。 別にこんなの恋とかそんなんじゃないと思うし…まず敏感なのは高校生じゃなくて釜伸じゃんね。 「ていうかお前…言わなくてもわかってると思うけど、何があっても手ェ出すんじゃねぇぞ」 「手ッ…出すわけないじゃんッ!」 割り込んできて何を言い出すかと思えば… ホント何言ってんだよ玉露! 確かに俺は男女共に見境なく気に入ったらグイグイ行くタイプだけど?流石に7つも離れてる…ましてや先月まで中学生だった子供にそんな事はしないよ! 犯罪者だよ俺! 「…わかってんならいいけどよ。…あーとにかく、そんなつまんねぇ話なら俺はもう帰るぜ?…お前も新任早々飲んだくれてねぇで早く帰って寝ろよ」 言いながら席を立ち上がり、店の壁に掛かった春物のジャンパーを羽織った玉露は“お前が呼び出したんだからお前が払え”と初任給すら貰ってない俺には痛すぎる出費を押し付けてから“じゃっ、明日な”と、帰って行った。 「──ん…?…アイツ今“明日”って言ったか?」 「えー?あーうん。明日キンタの撮影で一緒に出る予定だった読モの子がインフルエンザって言う仮病患ってバーターだった俺が出る事になってさ…」 そう、高校に上がった頃に玉露と街中歩いてスカウトされてから“なんとなく”入ってみた業界…それが読者モデル。 一般的なモデルとは扱いも収入も全く違うちょっとした小遣い稼ぎ。 俺と玉露は元々二人セットで決まった雑誌の専属をやってたけど、撮影が忙しすぎて俺だけ辞めて今は主にバーターでたまにインタビュー記事に画を4、5枚つけて載るくらい。 …別に何かのドラマに出るような俳優でもないから名前を売りたい訳でも無いし、1回のインタビューや撮影でざっと10万ちょいちょいくらいの収入?かな。 パキパキやってた頃はもっと貰ってたけど、今はそんなに出てないから知名度も下がって貰えても一回20万…とか? 金になるなら持ちかけられた時に気が向いたらやればいいかって…減らした。 「これでも一応売れっ子やってたんだけどね…」 「何を言ってるんだ。拘束されることに耐えられなくなって逃げたんだろう。あのまま続けていればもっと売れたものを…海外ブランドの専属の話もあったのに勿体無い」 「ぇえええだってぇ」 読モって色んなタイプの同世代が集まっててちょっとめんどくせぇんだもん。 友達…っていうか話し相手を作る事に抵抗の無い俺でもたまには静かに過ごしたい時だってあるのに“この前〇〇の雑誌出てましたよね?”とか“自分、専属決まったッス!”とかどうでもいい事ペラペラ言われるし、 …そーいう鬱陶しいの正直嫌いじゃん? 「…だがこれからはお前も“教師”という職に就くんだ、例えツユの爺さんが許したとしても本来なら掛け持ちは禁止の職業なんだからな。続けるのは自由だが生徒達にバレないようにするんだぞ」 「はいはいわかったよ~」 この“ツユ”というのは玉露のこと。 “ギョクロ”と呼ぶのが面倒で発音しにくいからと名前の下の文字だけを呼ぶ釜伸。 でもまぁ…そうだよね、釜伸の言う通り。 年頃の男女が揃う職場で働くとなれば、ファッションとかに興味を持ち始めてマセてくる子達も出てくる訳だから、もしかしたらどこかで俺を見た事がある子も居るかもしれない。
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