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なんとなくで始めてなんとなく仕事量を減らした俺はいわゆるニート予備軍。
そんな俺を見兼ねた玉露の爺ちゃんが“暇なら教師の免許取ってこい”って言ったことがきっかけでこれまた“なんとなく”短大に通って“なんとなく”卒業して“なんとなく”教員免許を取った。
そのお陰でこうして小金井学園に入ることが出来たんだけど。
つーか爺ちゃん自分の学園に俺を入れるつもりだったんなら最初からそういえば良かったのにいつもいつも回りくどいんだよ。
「ハァ…お洒落するの結構好きだけど、仕事の時はなるべく目立たないように変装しないとね」
だからと言ってもせっかくの就職先だし入ったからには長く続ける努力をしないと。
今までは生まれ持った強運だけでなんとか生きてきたようなものだし、お義父さんとお義母さんを亡くしてしまった今は俺しか稼ぐ人間がウチには居ないからな。
唯一の家族である義理妹も今年高校に上がったばかりだからバイトなんかさせたくないし。
「──グラスが空きましたが。」
俺と釜伸の話がひと段落ついて、飲み干した氷だけのグラスをぼんやりと眺めていたら店のマスターが気を利かせて次はどうするのか訊いてきた。
「…ああ、今日はここまでにする。請求はいつもと同じ“縁ーyukariー”に回しておいてくれ」
「わかりました。…季節は春とはいえまだまだ冷えますので、どうか暖かくしてお過ごしください」
「ああ、そうするよ。…お父さんによろしく言っておいてくれ」
「わかりました。伝えておきます。…では、タクシーをお呼びしますね」
「ああ」
有無を言わさず立ち上がった釜伸は、マスターと一言二言会話しながら俺に立てと催促した。
「えー…もう帰るの?まだ4時間しか飲んでないじゃん」
「何が“しか”だ。“も”だろうが。少し国語の学が足りていないのではないか?真っ昼間から保健室に入り浸たられて定時までお前のその色恋話に耳を傾けた挙げ句やっと開放されたと思ったら1時間足らずで再拘束だぞ」
「えーいいじゃん。今日は抹が友達の所泊まりに行ってて居ないから夜遊びしてもいい日なんだよ、遊ぼうよ!」
「だめだ。明日は撮影だろう?家まで送ってやるから今日はもう帰って寝ろ」
「あ、じゃ泊まりに来てよ!」
「明日は土曜だから茶道教室だ」
「えー昼からでしょ?いいじゃん別に!」
「コウ。僕は聞き分けの悪いヤツは嫌いだと言ったはずだ。子供じゃないんだ、言うことを聞け」
「…ちぇっ…わかったよ」
あーあ…まだ帰りたくないのに。
ちょっと粘って頑張ってみたけど無理くせぇなこれ。
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