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香田家・マンション前
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~その後~
※画像イメージ
“またのお越しを”
そんな丁寧な見送りをしてくれたマスターにヒラヒラと手を振って呼んでくれたタクシーに乗り込み数分。
「──ほらコウ…着いたぞ」
わかってたけど…もう着いた。
「…んぇ…?…もう着いたの?」
「当たり前だ。店からここまで10分くらいの距離に何を期待をしてるんだお前は」
「だって寒いもん。まだ降りたくねぇよぉぉお」
「エレベーターに乗って家に入り、靴を脱いでから真っ直ぐ二階に上がればすぐお前の部屋だ。布団に潜れば直に暖かくなる」
本当に…バーのマスターが言ってた通りだ。
春だと言われるこの時期でも、やっぱり朝と夜はそれなりに冷える。
…寒い。
人肌恋しい。
「ったくお前は…。もう眠いのだろう?さっさと家に入って明日に備えて早めに寝ておけ。この数分でうたた寝が出来るのならすぐにでも寝付けるはずだ」
「え、マジで来ないつもり?」
「ああ、行かない」
「む…」
「そんな顔しても無駄だ。行かないものは行かない。…電話なら寝るまで付き合ってやるから早く降りろ」
「え、ホントッ?!」
どうしても拘束したい俺とどうにかして解放されたい釜伸。
タクシーの運転手も苦笑いで聞いてて“早く降りてくれ”って顔してる。
そーだよね、わかります。
「ああ、本当だ。とにかく僕は帰って風呂に入りたい。電話するならそれからだ。お前も風呂に入っていないなら済ませておけ。そうすれば待つ時間も無いだろう?」
「わかった!じゃ、後でねッ!」
そこまで言うなら降りてやるさ。俺だってそんなに利かん坊じゃないし。
しかも電話してくれるって言ってたし!
支払いはいつもの如くハイパーVIPな釜伸に任せて俺はとっとと退散するよ。
どうせここからエントランス入ってゆったり物静かなエレベーターに乗って最上階に向かう俺より、ササッとお隣に構える大屋敷の裏口からスルッと入って離れにある自分の部屋に入る釜伸の方が早いんだから。
あーあ、いいよね平屋は。
俺なんて大災害起きたら逃げ遅れて死ぬんだからな!
「ファッ…さ、む…マジありえねー。春とか絶対嘘じゃんね。」
息をする度にホクホクと顔の周りを彷徨く白い息を潜りながら、やや小走りでエントランスに向かった──。
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