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『チッ…あー…明日の撮影のコンセプトが“大人と子供の境目”とか言うクソみたいな企画だからな。お前の苦手な俺達と同世代の野郎ばかりが集まる現場だ』
「うわぁ…マジで?…なんで引き受けたんだろ俺。めっちゃ行きたくねぇ…」
『ハッ…まあそういうと思ったからマネージャーに直行直帰すると連絡しておいた』
「うわ、マジでッ?!」
──うん、それはイイ。
『ハハッ…お前表現力スゲーな。同じ言葉でこんなに違う意味として吐き出せんのかよ』
「ねね、てことは…明日はキンタの車?」
『チッ…聞いてねぇし。…ああそーだよ。打ち合わせの時に少しだけロケバスに乗ると思うけど、他のヤツらは予め打ち合わせを済ませてるから一緒になる事もねーよ』
「やったッ!キンタの車は嬉しいね!ちゃんとかっこいいのにしてよ?!黄色じゃなくて赤の方だからねッ?!じゃないと行かないから!」
『…わァってるよ!その代わり撮影終わったら帰りツラ貸せよ。夜飯付き合え』
「えー全然イイッ!普通に行くッ!因みにどこ?!」
『…お前の行きたがってた店だ』
「えぇッ?!もしかしてあそこ…?」
「ああ、旨い牛タンが食える店だ」
やりぃッ!さすがキンタ!わかってるぅ!
そうか、行きたかったあの店に行けるのか。
…ちょっと遠い地域の。
いやちょっとって言うか…むしろ旅行って言っても過言ではないくらい県を跨いで行く感じの。
…って。
「ねぇ、ちょっと待って。ホントにその店行くの?…遠いよ?」
『あー…流石に本店は行けねぇけど調べたらこっちにも店舗出してるとか言ってたからお前がそれでいいなら行こうと思ってな』
…言ってた…って。
まさかわざわざ電話して聞いてくれたのかコイツ。
勘弁してよ…そういうの。
俺、直接的な好意って苦手なんだってば。
「そ、そっか…ありがとキンタ。楽しみにしてるよ」
『…ッ、あ、ああ。その前にヘトヘトになるまでカメラとにらめっこだけどな』
「うん、楽しみがあるから頑張れるわ」
『フッ…お前がそう言うならいいけど。…てか俺ここ最近撮影重なってロクに寝てないんだわ。明日も少し運転するからもう寝ていいか?』
「あ、うん…ごめん。ちょっと今日は独りぼっちだったから話し相手欲しいなァなんて思ってたとこ。…俺ももう眠くなってきたから大丈夫。付き合わせてごめん」
『…トイレは?』
「あー…電話する予定だったんだけど結構飲んでたから寝ちゃったみたい」
“…また先にアイツか”
──キンタがそう言った気がした。
「ん…?」
「いや…なんでもねーよ。とにかく明日は万全の顔面で挑まねーと来年丸1年全国に曝される事になるから気合入れて寝ろよ?」
…気のせいだったか?
玉露と話してるとたまにある事だ。俺とコイツの間で電波障害が起きるなんて今に始まった事じゃない。
「丸1年?」
…だから俺も何食わぬ顔して何も聞こえなかったフリで話を進める。
「ああ、明日は人気読者モデルのカレンダー撮影なんだよ。季節が中途半端なお陰で頑張ればオールシーズンの写真が撮れるとかって監督が息巻いてるらしいぜ」
「…夏物は嫌だな。絶対寒ぃもん」
「ハハッ…俺もだ。…じゃ、切るぞ」
「え、あ、うん…おやすみ」
「ああ、おやすみ」
────プツッ…プーッ…プーッ
こうして暇潰しで掛けた電話は案外実のある話になって終わった。
「──“必殺なんとなく!”…使えなかったし」
まあ…いいけどね。…別に。
断続的に流れる電話の切れた音を放置したままスマホをベッドの隅の方に投げて、天井を呆然と見た。
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