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「あ!釜伸くん!」
体育館のような、セレモニーホールのようなよくわからない場所からあと一歩のところで注意されたオレ達。
クキの声にビクりと反応して後ろを振り返ると、記憶の片隅にある面影が顔を覗かせた。
“釜伸くん”って…確かクキの茶道教室の先生だったような…。
「これ、ここは学校ですよ。ほうじくん」
「ブハッ、なんだよその喋り方まじキメぇ!」
「ハァ…、僕は口を慎めと言っているんだが?」
「うぐ…釜伸…先生…」
振り返った先に居たのは、クキ曰くイケメンと評判の茶道教室の講師。
オレ自身は初対面だからどんな顔してるのか気になってたところだけど…これは想像以上で言葉が出ない。
あまりの爽やかっぷりに全身にミントでも貼り付けてんのかってくらいの匂いがする錯覚までしてる。
「ふふ、行ってよろしい。深谷くんももう少し大人しくしましょうね?」
「…ッ、」
いけ好かねー野郎だ。
「おや、…返事が聞こえないのですが?」
「チッ…。クキ、早くしろ。行くぞ──」
とばっちりを食らってオレまで注意される始末をどうしてくれようか…なんてクキの首を掴もうとした瞬間、
「…ッ…?」
──嗅ぎ覚えのある匂い…?
動かそうとした足が再び止まった。
「おい…なんだよイリ。急に止まるな」
「あ、ああ…悪い」
こんなところで嗅ぐはずのない香り。
この匂いは…エースと同じ…。
「おら、行くぞイリ」
「あ、ちょ、おい!引っ張んな!」
「じゃーねー!釜伸くん!」
顔をあげてオレよりはるかにデカい先生達を見渡すけど、“こら!”とクキに注意をするミント先生と…後は…入学式にも関わらず白衣姿の変なヤツ…しか居なかった。
つか何だあの牛乳瓶の底みたいなメガネのヤツ。白衣似合ってねーしメガネが邪魔で口元しか表情は読めなかったけど…
めっちゃ見てたよな?…今。
「おい!イリ!」
「ああ、わかったようるせーな!」
いや、それよりエースの匂い…。
クキに引きずられながら今一度辺りを見渡すも、暑苦しいスーツを着た油っこいオッサンと、ミント先生とあの瓶底白衣しかやっぱり居ない。
…憧れすぎてついに鼻がおかしくなったのか。
「…よぉし!友達100人作るぞー!!」
「うるせーよ!また怒られるから静かにしろ!」
「こら茎野と深谷!!いい加減にしろ!!」
「「わぁってるようるせーな!!」」
にしても…気持ち悪いくらいオレをガン見してたな。…あんなのとは出来る限り関わりたくねー。
ホールを括り抜けて教室に戻る途中も頭から離れなかったキモい先生を思い返してげんなり。
──後にそのメガネの野郎とオレがどうにかなっちまうだなんてこの時は想像もしなかった。
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