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青筋を立てる市川の顔の脇を、魔夢の投げた木刀がかすめ飛んだ。ズドン。
「か、壁に木刀が……」
「馬鹿こんなの、ただのはったりだ」
大場に言われ、金森が獲物を引っこ抜こうとするが、コンクリートに突き刺さった木刀はびくともしない。魔夢は左から右へ、優しく腕を振った。朝、教室で振りまいた匂いだ。
「はふ……っ」
不良たちが一瞬にして腰砕けになる。
「ふ~ん。男色家に、マゾ野郎に、パンツ泥棒か……」
「誰がホモだ!」
「誰がマゾだ!」
「誰がパンツ泥棒だ!」
市川と、大場と、金森の三人は魔夢に性癖を言い当てられ怒鳴り声をあげた。魔夢は三人に微笑むと喋り始めた。
「ベッドの下のDVD、クローゼットの奥に隠した革のムチ、それにお姉ちゃんが脱いだ洗濯籠のなかのTバック。私、サキュバス(淫魔)だから、人間の性癖は匂いで分かっちゃうのよね」
「うわ~っ……」
明葉と照美が蔑んだ目で不良たちを見つめた。市川は眉間にしわを寄せ拳を固めてみせる。
「テメェ、フカしてるんじゃねぇよ!」
「でも正解でしょ。男の子のズボンを脱がして喜ぶなんて、男色以外、どんな趣味があるって言うの?」
魔夢は不良の間を横切ると壁に刺さった木刀を引き抜いた。
「この木の棒は掘りたい、掘られたい、どっちの暗喩なのかしらね?」
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