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「ハルナ?!」
エレベーターを待ちきれずに転げ落ちんばかりの勢いで階段を降りると、エントランスで所在なさげに佇む女性のところへ息を切らしながら駆けつけ、その顔を両手で挟んで観察する。
確かにハルナだ。
あのころよりすこし顔立ちが大人びているし、身長も高くなっているが、驚いて目をぱちくりさせる表情は変わらない。ほんのりとあたたかいので幽霊ではないだろう。桜色のロングフレアスカートの中には脚があるはずだ。
「死んだんじゃなかったのか」
「死んでませんけど」
彼女は不思議そうに答える。
声はあのころのままだった。インターフォンで気付かなかったことが信じられないくらいに。まさか生きているとは思わなかったので、無意識のうちに選択肢から排除していたのかもしれない。
ウィーン--。
ガラスの自動扉が開く音を聞いてハッと我にかえり、彼女の頬から手を離した。入ってきたのはジャージを着た中学生くらいの男子だ。怪訝な顔でチラチラとこちらを窺いながら通り過ぎていく。
「あー……ここではまずいな……」
昼下がりなのでそれなりに住人の出入りがあるはずだし、管理人室もすぐそこだ。いまは不在のようだが近いうちに戻ってくるだろう。しかし、自分の部屋に上がってもらうにはためらいがあった。
「いい天気だし、隣の公園で話さないか?」
「はい」
千尋の意図に気付いているのかいないのか、ハルナは訝る様子もなく、ふんわりとやわらかく微笑みながら応じてくれた。
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