第12話 七回目の桜のころ(最終話)

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「あの、私が死んだと思ってたんですよね?」  頬から手を下ろすと、ハルナが不思議そうに小首を傾げてそう尋ねてきた。  死んだんじゃなかったのか、と口走ったのを忘れていなかったらしい。気まずさに思わず目をそらすが、こうなったら話さないわけにはいかない。ゆっくりと息をついて答える。 「あの半年後くらいに、おまえが自殺しようとしたあの交差点で、女子中学生が信号無視の車に飛び込んで自殺したって聞いて……おまえに買ってやったペンギンのぬいぐるみも現場に落ちてたし」 「それは……すごい偶然……」  彼女は驚いたような困惑したような複雑な顔になりながら、ようやくといった感じで言葉を絞り出した。しばらく沈黙したあと申し訳なさそうに言葉を継ぐ。 「あのときは二時間くらい行くあてもなく歩いていたので、自宅からも学校からもかなり離れていて、あの交差点がどこにあるのかも正直わかっていません。半年後の話も知りませんでした」 「そうか……」  彼女は何も悪くない。  勝手に誤解したあげく確かめもしなかった千尋が悪い。本気で調べれば、自殺した女子中学生がハルナでないことくらいわかっただろう。しかしながらショックで考える気力すら残っていなかったのだ。  ただ、こうやって無事に生きているからといって、すなわち幸せに暮らしているとは限らない。あのころより身なりはまともになっているが、さきほど父親の話が出ていたことから考えると--。
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