第一話 僕と先生の週末

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第一話 僕と先生の週末

 先生が初めて僕に声をかけてくれたときのこと、覚えていますか。  僕はよく覚えています。あれは僕がこの城南高等学校に入学して間もない頃のことでした。  古い校舎と増築した新しい校舎をつなぐ渡り廊下は各階にあって、その最上階の渡り廊下は眺めもよく、それでいて生徒はあまり通らない場所でした。僕は入学して間もなく、そのちょっとだけ特別な場所の存在に気づきました。  一人になれるその場所がとても気に入ったので、休み時間にはよくそこでぼんやりと外の風景を眺めていました。  僕はそのお気に入りの場所に一人でいることを誰にも悟られたくありませんでした。だから誰かがそこを通ると僕は、あたかも偶然そこに居合わせたかのように振る舞い、誰もいなくなるとまた自分の世界にそそくさと舞い戻りました。  自分だけの特別を、誰にも侵蝕されたくなかったのです。誰かに知られることは、まるで心の奥の敏感な部分をえぐり取られるようなものだと感じていたからです。  だけど唯一、先生は違いました。  僕がすぐに先生に気づかなかったのは、たぶん先生がその特別な空間に、あまりにも自然に調和していたからなのだと思います。 「こんにちは、ええと、阪上雅史くん……だよね。私のこと分かるかな? 英語担当の、春日です。授業中のはずなのに、ここで何をしているのかな?」  眼下に広がる満開の桜の木。ここは唯一、空から校庭の花見ができる場所ですから、そのとき僕の意識は心地よく現実から浮きあがっていました。  それなのにすぐ背中から鈴の音のような澄んだ声が響き、引き戻されてとても驚きました。
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