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けれどもヒールの高さが慣れなかったのでしょうか、その凛とした姿勢が突然、崩れてしまいました。
「あ……っ!」
それは先生にとっては恥じるべきことだったのかもしれません。
よろけた先生がつい、その細くて綺麗な腕を、そのピンク色の頬を、そして眩しいキューティクルの黒髪を、この僕の胸の中に預けてしまったのですから。
それはただの偶然に過ぎないのかもしれません。でも僕は気づきました。先生のすべてはシルクのように艶やかで繊細にできていました。
先生を抱きとめる僕の胸が、とくん、と深く震えました。
「だっ……大丈夫ですか、先生」
「う、うん……ごめんね、ちょっと恥ずかしいわ」
先生は赤らめて俯き、そそくさと僕から離れ、ばらついた髪を細い指でそっと耳にかけて整えました。
だけど先生に触れた瞬間の、その麻酔のような不思議な感覚を僕は忘れるはずがありません。
そしてそのとき、先生と僕との間に、どこまでも続く、細くて眩しい光の道が見えたのです。その光の道こそが運命というものなのだと、信じてしまうのはごく自然なことでした。
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