明日なき暴走の果てに（長編）

第一話 僕と先生の週末

　一目惚れっていえば、そうなのかもしれません。

　大人の女性に憧れる、そんなことは誰にだってあるのだと聞いたことがありました。その時まではそれが自分に降りかかることだなんて、少しも思っていませんでした。そしてそれがどんな密度で僕の心に根を生やし枝葉を広げてゆくのか、想像だにできませんでした。

　それ以来、とりつかれたように先生の姿をいつも目で追いかけてしまう僕は、それがどうしようもなく苦しいものであると同時に、僕の世界をあの桜花よりもはるかに美しい色で染めあげてくれる、深い歓びでもあるのだということに気づくまで、相当に長い時間がかかってしまったのかもしれません。

　この十代半ばのアオハルの時代に、密かに想い続ける一年という期間は、悠久にも匹敵するのだと知ることになりました。その残酷で美しい時間において、僕はずっと熱に浮かされていたわけですから。

　そして先生のことをずっと見ていたせいだと思います。自分の気持ちだけじゃなく、先生が思いつめたような表情をしていることに、僕だけが気付くのは自然なことだったのです。