祖母の愛したこたつ

4/7
前へ
/7ページ
次へ
それから数年、俺はアメリカで過ごした。 「宝物」はボロボロになっていたが、いつか祖母に会えて集まれれば、また家族の一員に迎えられるような気がして、どうしても捨てられないままだ。 祖母に会いたい一心で、日本語も猛勉強した。 俺が二十歳を迎える少し前、日本から祖母がガンだと言うこと、認知症が進んでいることが知らされた。 俺はどうしても祖母に会いたくなり、両親の反対を押し切って、日本に渡ることにした。 くしくも季節は冬で、昔より更に寂れた田舎町は、寒さを一層厳しくさせている。 住所のメモを頼りに、人に尋ねながら、祖母の家を目指す。 一心不乱な俺は、「外人」に向けられる視線なんて全く気にならない。 やっと辿り着いた祖母の家のインターホンを、生唾を飲み込んで鳴らす。 ♪ピンポン 軽いインターホンを押してしばらく、中から中年女性が出てきた。 「スミマセン。連絡ヲシタ、タイガデス。」 考えていた挨拶を、片言の日本語で必死に伝える。 「どうぞ。」短く伝えた女性は、中へと案内してくれた。 家の中央に位置する居間に設置されていたのは…こたつ。 そのこたつに座る1人の老女。 直感だった。 「オバアサン、タイガデス。」 声はきっと少し震えていただろう。 返ってきた言葉は、胸に突き刺さる。 「どちら様かな?外人さんは珍しいの。」 祖母ではないのだろうか? そんな疑問は、先程の女性が払ってくれた。 「認知症が進んで家族がわからないんです。」 再会の抱擁すら考えていた俺は、こぼれそうになる涙をなんとか飲み込む。 「コレ、オ土産デス。」 やっと振り絞った言葉は、それだけ。 祖母はにっこりも微笑んで、こう言った。 「土産はいいの。旅先におっても、その人のことを忘れとらんゆう証拠や。」 「オバアサンヲ、忘レタコト、アリマセン。」 「おやまあ」 少し驚いた表情の祖母は、にこりと笑って続けた。 「外は寒かったろう。お入り。こたつは互いのぬくもりを感じられて、一番温かい。」 促されて、戸惑いながら、期待に胸を膨らまて、こたつに足を入れる。 こたつは、温かく……なかった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加