祖母の愛したこたつ

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「もうだいぶ前に壊れて、温かくならないんですよ。でもおばあさんがそれがいいって譲らなくて。」 俺の驚きを見抜いたのか、女性はそう説明してくれた。 「おばあさん、お手洗いの時間ですよ。」 女性に促され、祖母はしぶしぶと言った様子で席を立って行く。 祖母が去ったこたつは、一層冷たさが強く感じられて、また泣きそうになる。 夕食時、女性は祖母の再婚相手の娘、つまり俺の叔母にあたること、他の家族は進学や就職.出稼ぎで家を出ており、家には祖母と女性が二人きりであることを教えてくれた。 祖母の希望で夕食もこたつで取った。 ほんの少しだけ温かく感じるのはこたつのせいではなく、下に敷かれたホットカーペットのせいだと知り、虚しい気持ちに襲われる。 無言で食事をする中、唯一祖母だけは嬉しそうに笑っている。 「こたつはいいのう。皆のぬくもりで、より温かいのう。」 冷たいこたつと、幸せそうな祖母の表情が対比的だった。 数日間滞在して、俺は毎日祖母と冷たいこたつに入り続けた。 どうしても思い出して欲しくて、初めのうちは持って来た祖父や母の写真を見せて、繰り返すように話し続ける。 「そんなことがあったんやなぁ。」 何度説明しても忘れてしまうようで、祖母は他人事のようにそう繰り返す。 祖母が思い出すことはなく、俺は「思い出してもらう」ことより「覚えてもらう」ことにした。 名前はタイガ、年は19、アメリカに住む大学生。 繰り返し、繰り返し、挨拶をする。 結果は、変わらなかった。 滞在期限の迫る中、こたつは一向に温かさを感じさせなかった。
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