15人が本棚に入れています
本棚に追加
数日後に帰国を控えた夜、祖母の容態が急変し、救急車で運ばれた。
「ここ数日の命でしょう。」
そう言った医者は、痛み止めの薬のみを処方し、祖母の希望通り自宅に帰ることを勧めた。
布団に横になり、意識が朦朧とする中、誰ともわからない名前を呼び続ける祖母。
翌朝、目覚めると祖母がこたつに座っていた。
「タイガ、大きゅうなったの。さぁ、寒いからこたつにお入り。」
心臓がドクンと跳ね、言葉が出てこない。
「さぁ、お入り。みんなで入るとお互いのぬくもりが感じられていいんじゃ。」
よろよろとこたつに入る俺の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていただろう。
「タイガは泣き虫だったかの。男の子は簡単に泣いたらいかん。タイガのじい様は、そりゃあ男らしい人じゃったぞ。」
「ボクハ…タイガデス…アナタノ孫デス…」
「ああ、わしの可愛い孫じゃの。」
「ボクハ…アナタノ…家族デスカ…?」
「当たり前じゃないか。普段会えんでも集まれば家族になれる。タイガは大事な家族じゃよ。
ほら、家族で入るこたつは、一層温かいじゃろう?」
「オバア…サ…ン…。」
とめどなくとめどなく、涙が溢れ、何度も祖母を呼び続ける。
その度に祖母は笑って頭を撫でてくれた。
その夜、何事もなかったかのように祖母は眠りに就いた。
そして翌朝には、旅立っていた。
葬式の準備などで集まった親戚たちによって、こたつは隅に片付けられた。
喪服を持っていない俺は葬式には参列せず、居間で、壁に立てかけられたこたつを眺めている。
あれは夢だったのだろうか。
はっきりとしない意識の中で声が聞こえた。
「お入り。お互いのぬくもりが感じられて、温かいじゃろ。」
誰もいない居間で、俺は声を殺さず泣いた。
最初のコメントを投稿しよう!