第1章 高三の夏休み

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佐紀は、 「ふーん、そうなの。私は、海辺佐紀。こっちは、川野未知。」 とタメ口で言うと、未知は、 「佐紀、余計なこと、言わないの。」 と、不快そうに言った。 駅のアナウンスが、 「まもなく二番線に取手行きが参ります。黄色い線の内側に下がってお待ちください。」 と言うと、しばらくして、ステンレスの車体に緑色のラインの入った電車が滑り込んで来た。 アナウンスが、 「新御茶ノ水、新御茶ノ水。丸ノ内線、都営新宿線、JR中央線、総武線各駅停車はお乗り換えです。列車から離れて、お歩きください。次は、湯島に停まります。」 と言っている間に、佐紀と未知、松田は、乗客がまばらな電車に乗り、空いている席に、松田を真ん中にして座った。 松田が、 「二人はどこに住んでるの?」 と聞くと、佐紀は、 「西日暮里だよ。」 と答えた。未知は、 「私は、ノーコメントです。」 と、ツンとして、答えた。 松田は、 「私は、小田急線の下北沢に住んでいて、今日は、赤坂のTBSまで、連続ドラマの打ち合わせで、赤坂に来ていたんだよ。」 と話した。 佐紀は、 「連続ドラマに、松田さんの事務所から、女優さんが出てるの?」 と聞くと、松田は、 「そう。江戸川桜って言うんだけど、知ってる?」 と、二人に聞くと、未知は、 「江戸川桜?知らないわ。佐紀、知ってる?」 佐紀は、 「私も知らない。売れない女優なの?」 と聞くと、松田は、 「一流女優とは言えないけど、そこそこ売り出し中で、やっと、脇役がもらえたんだ。私は、江戸川桜のマネージャーもしてるよ。来年1月から始まるTBSの連続ドラマ『その他大勢の若者へ』に、主演の若葉実の姉役で出るので、見てね。」 と答えた。 佐紀は、 「若葉実の姉役なんて、すごいじゃん。若葉実、大好き。今度、会わせてくれない?」 と、目を輝かせて言うと、未知が、 「佐紀、すぐ信用しちゃダメよ。芸能事務所の社長を語る詐欺かもよ。」 と、警戒感を露わにした。 松田は、 「証拠なら、あるよ。ドラマのポスターの宣伝ビラを見せるよ。」 と言って、カバンから、クリアファイルに入れたA4のチラシを二人に見せた。
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