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時間は22時50分。
私は悠哉さんの住むマンションの前にいた。
あの後、タクシーがなかなか捕まらず、最後は真下さんが車を出してくれた。
別れ際、彼は幸運を祈るよとだけ残して車を発進させた。
不可能を可能にーーー
私は右手で紙袋をきゅっと握り締めると、いざ決戦へとマンションの中へ向かった。
エントランスを抜け部屋番号をゆっくりと押した。
705
数字を打ち込むと最後に『呼び出し』ボタンを押す。
「はい」
紛れもなく悠哉さんの声だった。
「お届け物です」
名前は告げられなかった。でも、自動ドアは開いた。
ドアをくぐると、胸を張り堂々とエレベーターへと向かった。もう引き返せない、そう思った。
部屋の前に立ち、ゆっくりとインターホンを押す。ピンポーンと乾いた音が耳に残った。
しばらく待ったものの、彼が出てくる気配はなかった。
緊張しながら、もう一度インターホンを押そうとした。その瞬間、ドアが開いた。
「ジャルダン・ブルーよりお届け物です」
自信なさげに伏し目がちで現れた悠哉さん。私は照れ隠しにふざけて挨拶した。
「どうしてここにいるの?」
「会いたかったからです」
悠哉さんは怒ったようにムスッとした表情だった。
「俺とはもう終わったんだよ」
彼は心なくそう切り捨てるとドアを閉めようとした。
私は引き留めようと、彼の腕を掴んでドアの間に左足を挟んだ。
「待ってください」
今にも泣きそうになりながら、必死で彼に想いを伝えようとした。
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