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「11時で1組予約完了したから」
ヘッドセットマイクでそう本部に伝えると、向こうからは驚きが聞こえた。
「マネージャー、もう集客してるんですか?」
「当たり前よ、今月ドタキャン多くて成約件数目標ギリギリなのよ」
苛立ってる原因は、案外それかも知れない。
あ、後は生理前とか?
「本当だ、予約入ってる。あれ、でもこれアンケートには答えて貰ってないですよね」
「情報は私が打ち込むから大丈夫。無理に勧誘するのも難しそうだったから、念のために後2組くらいは声掛けてみる」
「頑張りますね~」
入り口付近の人だかりは、開場30分もすると随分落ち着いてきた。
誰か立ち止まってそうな人いないかなと探しながら、メインステージを取り囲むように歩いていると、前から学生と見える女子の集団が歩いて来た。
最初はカップルぐらいしかブライダルフェスタには興味ないかと思っていたが、案外女の子同士でも来てくれたりする。
まぁモデル目当てなんてのも多いけれど、学生達が遊び半分に来てくれるのは、主催者側としても嬉しい限りだ。
何故なら、ブライダルフェスタと言うと、やっぱり女性がメインターゲットになりやすいのは否めないからだ。
会場の雰囲気やイベントやブースに並ぶのは、花嫁姿の女性に相応しい、煌びやかなヘアメイクや色とりどりの装花。フードコーナーには甘いスイーツやヘルシーフードとドリンク。他にも美容サプリや女性向けのグッズがこれでもかと並ぶ祭典でもあり、ドレスを纏ったファッションモデル達が主役や目玉になるものが多い。
最近は結婚適齢期も上がり、モダンな雰囲気や多少シックな雰囲気が持て囃されつつはあるが、人生一度なら誰だって大枚叩く以上は、非現実的な雰囲気を楽しみたいのだろう。
そのため、結婚という幸せを演出する上で、ホワイトやピンク、パステルカラーに染め上げられた空間が好まれやすいのは事実だった。
そう、若い子ほど結婚のリアルさなんて微塵も考えてはいない。日常とは違う別世界に来た気持ちで、憧れのモデルやお気に入りのファッションと触れ合えるイベントにすることは、この業界にとってプラスになるのだ。
私はすれ違い様、彼女達に頭だけ下げた。
すると、背後からこんな言葉が聞こえてきた。
「今の人、バリバリ仕事してそう」
「黒のスーツとか会場の雰囲気考えなよって思うよね。ファッションセンスないな」
「なんか、あれだと仕事って感じするよね。結婚のイベントなのに」
結婚のイベント
バリバリ仕事してる
私は別に彼らにどう思われても構わない。
確かに全身黒で固めたような私の存在はかなり異質ではあると思うから。
ただ、こんな身なりの女であっても結婚を考えることはあったのだ。
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