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前髪を払うように首を一振りすると、私は気合いを入れ直した。
すると、カフェエリアの手前で険悪なムードのカップル発見をした。
若いまだあどけなさの残る2人は、カジュアルな装いをしていた。彼女の方はふわっとしたワンピースに身を包み、ロングコートを羽織っていた。彼氏は、長身の痩せ身でキャップにブルゾン、ジーンズを履いていた。
私は彼らに近付き、しばらく2人の様子を観察することにした。
「だから、こういう場所苦手だって言ってるだろ?」
彼氏はイライラしているようだった。
「分かってるけど、せっかく来たんだから」
「無理やり連れて来たんだろ?大体必要なのは式じゃない。子供産まれるんだから、そっちにお金かかるんだし、結婚式なんて何も今あげなくても…」
「分かってるよ、それは」
彼女は俯くと涙声だった。そして、あまり強くいい返せる様子もなかった。
あ、やっぱり
そうだったんだ。
なんとなくそんな気はしていた。最近ほんと多い。
考えなしに結婚に向かうカップル
「ほら、帰るよ。風邪引いたらまずいしさ」
彼女は名残り惜しそうに、ステージの方を振り返ると、そこに設置された画面にはウエディング姿のモデル達の映像が流れていた。
その目には今にも溢れそうな悔しさが滲んでいた。
「結衣菜、いい加減にしとけって」
彼氏の方は苛立ちがピークに来たのか、眉間に皺を寄せると、彼女の右腕を掴んで、連れて出口へと向かおうとした。
「お待ち下さい」
私は我慢ならずに2人を呼び止めた。
「あんた、誰?」
「失礼しました。私は運営のスタッフです。場内でのトラブルは他のお客様にもご迷惑になりますので、注意するようご協力お願いします」
「じゃあ主催側ってことですね。ご心配なく、もう帰るので」
彼はそう言ったが、彼女は違った。
「いや、私まだ帰りたくない」
男は小さく舌打ちすると、帰ろうとしたが私はとっさに引き止めた。
「あの、お待ち下さい!」
「まだ何か?」
「いいえ、せっかくいらっしゃったのに何かご不満を抱かれたようなので、良ければ簡単にでも教えて頂けたらなと…」
あぁ、内心やっちゃったなと思った。
でも、あの気弱そうな女性が、この憎い男相手に一人抵抗しているのはほっとけないでしょ
「理由?そんなの聞いて何になるんですか?ただ、嫌いなだけです」
「嫌いというのは…」
「この音楽といい、ドレスといい、女性の欲肥大化させて無理に幸せ売り込む商売がな、大嫌いですよ」
「あの女性の幸せについて、真剣に考えない貴方が結婚を望まれる理由は何ですか?」
「は?」
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