幸せの形

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「ご予算もうお考えなんですね?でしたら、彼方に相談カウンターもございますし、詳しくはそちらでお伺い下さい。予算に見合う式のプランや見積もりなど、プロのアドバイザーがご相談に応じますので、良ければご利用下さい」 「あの、あなたお名前は?」 聞かれるとは思わなかった。私は頭を下げると名を告げた。 「申し訳ありません。私ブライダルアドバイザーの廣田と申します。つい、出しゃばってしまいましてすみません」 「いや、俺の方こそイライラしてました。すみません」 向こうから謝られるとは思わず、拍子抜けしていると彼はさらに続けた。 「あんまり、こういう雰囲気好きじゃないっていうか、苦手なんですけどね。彼女は好きみたいだし、でもお金もあんまりないし、馬鹿にされるんだろうなと思うと気が向かなかったんです」 「皆さん、多かれ少なかれ、結婚式に前向きな方ばかりではないですよ。あなたのおっしゃるように、雰囲気だけで毛嫌いされたり、過剰に夢見がちになったりしてしまう部分はありますしね。私達の仕事はその現実と理想の両方を知って貰うことをサポートする面もありますから、あなたのような人にこそ来ていただけて光栄です」 私は深々と彼に頭を下げた。 「そうなんですね。俺らみたいに大したお金持ってなくても式挙げられるんですね」 「勿論です。結婚式はひと昔前より随分、カジュアルでリーズナブルなものが多くなりました。此方ではお二人のご希望に添える予算や式の形態についてプロの視点でご提案させていただいています」 「へー」 「それに、必ず式を挙げないといけないわけじゃないんじゃないかと私自身思う部分はあります。でも、せっかくのお二人の人生の節目でもあるわけですから、あなた方が納得できる形にする作業の一環として式をご検討するのは意味があるんじゃないかなと思うんですよね」 2人は意表をつかれた様子で顔を見合わせた。 「式挙げなくてもってどういうことですか? 」 彼女は不思議そうな様子で私に尋ねてきた。 「これは自論でしかありません。でも、必ず挙式をしなきゃいけないわけではないけれど、挙式を検討することで、自分達にとって最善の形で結婚生活スタートを切れる状態にした方が、お二人やご親族にとってもいいんじゃないかと思うんです」 2人は不安そうにしていたが、少しだけ強ばらせいた表情を緩めた。 今は日本も長引く不況で、ブライダルだって決して売り上げが好調とはいえない。でも、そんな時代にあってもやはり、結婚式はかけがえのない特別なイベントであり、記念でもある。 簡単に式は要らないなんて、思うのは違うんじゃないかって私は仕事を続ける中で思うようになった。 「なんか、そういう風に考えたことなかったけど、ちょっとだけ楽になりました」 「私も式ってきっちりしなきゃいけないんだろうなと思ってばかりいて、自分達には荷が重い気がしてました。ちょっと考え方変わったというか、なんか楽になりました。ありがとうございます」 2人はさっきと打って変わり明るい表情を見せた。 「いえいえ、せっかく足を運んでいただけたなら、少しだけ真剣に考えてみていただけたらなと思いました。どうぞ、楽しんで行って下さい」 私は深々と頭を下げると、2人は軽く頭を下げて去っていった。 ちょっと、いやかなりドキドキした。 あぁいうことやっちゃいけなかったのかもしれない。でも、ほっとけなかった。 右手を胸の前に持っていくと、ぎゅっと拳を固くして胸に当てた。 鼓動が早まるのを止めたかった。 私は落ち着きを取り戻しながら、場外の自販機へと向かった。 自販機で水を一本買う。ペットボトルの蓋をあけて水を喉に流し込む。渇きが癒えていくのが感じられた。 私は業務に戻るため、再び場内に入ろうと入口へ向かうと、受付のスタッフや警備が一人の男と対峙していた。 男は黒のパーカーでどうやらマスコミ関係者のようにも見えた。 「だから、大下追ってたら、ここに着いたんだよ」 大下? 私はその言葉に面倒な話だなと思いつつ、事情をスタッフに尋ねようと歩を進めた。すると、反対側の廊下からスーツ姿の男性が早足でやって来た。 崇さんだった。
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