232人が本棚に入れています
本棚に追加
「ミツバチを待つ花より、蜜を吸いに来る蝶の方が俺は好きだけどね」
困った様子で切なげにそう告げた彼はベッドから降りると、シャワールームの方へ消えた。
焦れたっさと、気だるさで何も言えずにいた。
急に解放されたために、身体に籠った熱と共に火照りが一気に冷めていく。
そうして冷えてく身体とは対照的に一筋の涙が頬を伝った。
呆れたんだろうな、崇さん。
でも、もう情熱が何か分からないの。貴方が嫌いなわけでも、悠哉さんを略奪する程にも燃え上がらない。
恋愛って美味しいところだけ、互いに吸いあえたらそれが一番じゃない?
蝶ってヒラヒラ舞うから綺麗なのよ。
花を選んでるわけじゃなくてただ舞うのが好きなの。
15分後。
崇さんが濡れた髪をバスタオルで拭きながら、バスローブを引っ掛けてシャワールームから出て来た。
「あら、まだ居たの?」
「逃げたいわけじゃないわ」
「ははっ、都合良いな。じゃあ今からやる?」
そう言って来たものの、彼は興味無さそうだった。
冷蔵庫から缶ビールを出すと、窓側の椅子に腰掛けてそれを飲み始めた。
「ごめんなさい」
「謝られるほど惨めなことないよ」
笑顔でそう言った彼の目元はちっとも笑ってなかった。
「嫌いになれないの」
「はいはい」
崇さんはちっとも目線を合わせようとはしなかった。
澄み切った夜空から降り始めた雪が、横浜の夜景に溶けるのをただ眺めていた。
最初のコメントを投稿しよう!