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週末土曜日。今日は曇天で夕方からは雨の予報だった。でも、店舗は予約が多くて忙しい一日になりそうだった。昨晩、日曜の夜、会えないかと崇さんからメールが来ていた。
返事はまだしていない。
朝、休憩室で何て返そうかと、カフェオレをストローで吸い上げながら悩んでいた。
「おはよう。で、どうだったの志帆様のお言葉は」
「あぁ、誰と幸せになるかより誰を幸せにしたいかが重要だってさ」
「なるほど」
いつもより声のトーンが低かった。
心なしか有紗が元気を失くしているように見えた。
「どうかした?」
有紗が罰悪そうに差し出して来たのは辞表だった。
「辞めるの?」
「もう半年以上前から、実家帰って来いって言われてて。お父さんこないだ倒れたしさ、私もいつまでも契約じゃあね…」
涙を堪えているのが見て取れた。そうか、いつも笑顔の有紗だって、決して能天気なわけじゃないもんな
「そう。わかった、引き継ぎ探しておいてね。また報告するわ」
「ありがとうございます、マネージャー、お世話になりました」
7年目となれば、もう同期なんて数えるくらいしかいない。
有紗、本当は辞めて欲しくない。だって私にはもう味方もいない。
一礼だけすると、静かに私の元を去って行った有紗の後ろ姿をじっと見ていた。
受け取った辞表の重さを実感した。
私はそれを片手に、スマホの電源を入れた。右手でメッセージ画面を開く。
To大野崇
会いたい。
抱きしめて
とだけ打ち送信した。
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