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切り替えるようにトークアプリを開いて、時計を見る。今ならまだ、大丈夫。
「そろそろこたつでも出しませんか?」
いいね!
了解!
スタンプだけの会話だって、ほら、こんなに小気味いい。
気合いを入れ直して押し入れを開ける。
こたつ布団を取り出したときに何か書類が落ちた気がしたが、後で拾うことにする。
去年までは、休日に二人で大騒ぎしながら冬支度をするのがおきまりだったが、今年は彼の仕事が忙しかった。出張も多かったから、寒さが厳しくなるまで本気で忘れていたのだ。
「準備完了♪」
写真を撮って、送信。
タイムオーバー、スタンプの返信はない。
食器でも片付けてしまおうと足を動かしたとき、足の裏にチクリと痛みが走った。
「いったい!!」
うちには子どもがいないから、おもちゃということはない。
カーペットの上に落ちていた何かか、こたつと一緒に運ばれてきた何かか。
しゃがんで拾ってみると、見覚えのあるイヤリング。
「え?」
慌てて、耳たぶに触れる。
両耳にしっかりついている。
そのデザインには、見覚えがあった。先月の記念日に渡されたばかりのプレゼント。
新作だと自慢げにつけてもらった。
今日もつけているそれの、3つめはありえない。
「......」
憎いとか、悲しいとか、涙とか。
全て忘れて、ただ呆然と立ち尽くしていた。
押し入れの前に落ちていた書類を見て確信してしまうまで、あと十数分。
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