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(成る程な....。
本来なら聞こえない類いの音という訳か?)
和希は意識を、周囲の空気と同化させる。
そして、意識内に僅かな音色が響く。
いや、それは明確に言うなら音色ではなかった。
規則性のある音の羅列。
言うなれば音の暗号である。
(常人ならば聞こえない周波数の音かーー。
成る程な、それならばあの時の俺に聞こえないのも当然か。)
和希は過去を振り返えった。
だが、それは当然といえば当然のこと。
当時は特殊な技能などは持ち合わせていなかったのだからーー。
だが今は......。
(あの頃とは違うからな....。
しかし、何処が音の発生源なんだ?)
和希は心穏やかに、耳を澄ます。
そして、和希はゆっくりと音の出所へと手を伸ばした。
直後、風鈴の音色にも似た涼しげな音が響く。
心安らぐような音色....。
(これはまるで、九重の静音のような....。)
和希はふと、懐かしき過去を振り返る。
九重の静音【ここのえのしずね】とは久遠慈家に代々、伝わってきた和歌であった。
しかし、和希はその事が府に落ちず、首を傾げる。
当然だ、この状況を予想していたかのような展開を怪しまぬ者などおるまい。
しかし、そんな和希の疑問などお構い無しに、事は一方的に次々なる展開を迎える。
いや、その状況は自然に生じたものではない。
結果として和希自身が生じさせたものだ。
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