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「ふーん?
なら今、風呂にいる誰かさんの物って訳ね?」
屍見は妖艶に笑む。
それは屍見が死体に向けらる眼差しに、似ていた。
当然と言える事だが、屍見とは本名ではなく通り名である。
屍見とは、死体をこよなく愛する彼女の異常な性質に大してつけられた通り名だった。
どのくらい異常なのかといえば、彼女に見初められた者は彼女に殺され必ず、死体と成り果てるーー。
そんな逸話が残る程の異常性を、彼女は有していたのだった。
だが、救いようのない異常者なれど、仕事道具を作る腕は超一流....いや、天才と言っても差し支えのない腕を持っていたのだ。
まさしく天才と何とかは紙一重なのだろう。
「分かっているなら、最初から聞くな。
後、気にいるような事があっても殺すなよ?」
「あら、私って、そんな無節操に見えるのかしら?」
「見えるから言っている。
この前、ニュースで報道していたアイドルの氷付け死体、お前の仕業だろ?
あの性欲権化みたいなあの男の事を、お前はえらく気に入っていたからな?」
「あら、何の事かしら?」
「まあ、俺には関係ない話しだが、程々にしろよ?」
和希からの一言に屍見は「はいはい」と適当な答えを返す。
しかし屍見はその直後、続けざまに言う。
「ところで陽炎【かげろう】、頼まれていた物も出来上がったから次いでに持ってきたわ。」
そう言うなり屍見は、かなり小型のアタッシュケースを和希の前へと差し出す。
和希は受け取るなり、即座にアタッシュケースを開け中身を確認する。
「これが例の代物【ブツ】なのか?
見た感じプラスチック素材にしか見えないのだが?」
和希はアタッシュケースに収納されていた三角定規や、コンパス等の文具を見詰めながら屍見へと問いかけた。
「そう見えるでしょうけど間違いなく、それが硬質水銀で作った一品よ。
高度はチタン合金とほぼ同じ。
後、分かっていると思うけど毒性が強い素材だから持つ時は、この手袋を着用する事。」
「分かったーー。」
和希は一瞬、迷いながらも屍見へと、そう答える。
本来であれば、これは家族の仇である講堂を殺す為に注文したものだ。
だが、硬質水銀と呼ばれる水銀結晶はかなり希少であり加工にも手間がかかる為、講堂を狩るタイミングには間に合わなかったのである。
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