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(一体、何があるというんだ?)
和希は周囲の気配を探りながら、かつて住みし場所へと向かった。
だが、そこは多くの思い出が残されし場所であると同時に、忌まわしき思い出に溢れたる地。
そして、それと同時に、その場所は危険隣り合わせであった。
だからこそ、和希は今まで生家ーー。
いや、実家だった思い出深き廃墟に近付かなかったのである。
故に和希は少女を芝虎に預け、ただ一人で訪れたのだ。
(寂れたものだな、ここもーー?)
和希は懐かしき思い出と照らし合わせながら、寂れた果てた現実を見つめる。
闇の世界に堕ちて復讐に生きる自分の心を映す鏡の如く朽ち果てし、かつての我が家......。
和希は何とも言えない気分で、残骸の散乱した屋敷内を見渡す。
日も落ち、辺りは暗闇のみーー。
しかし、物質の存在感を探り当てる感知技術を身につけている和希にとって暗闇は、何の障害にもなりえなかった。
暗闇の中、一分の光もない空間を歩みながら和希は、瓦礫と残骸だらけの足場を素早く歩き続ける。
(妙だな....てっきり、俺が生きている事を疑ってかかっていると思っていたんだがな....?)
今の所、何者かが潜んでいる気配は無いーー。
和希は一応、警戒しながら手帳に示された星印の場所へと、移動し続ける。
そして、和希は頭部の欠損した石の彫像の前で不意に立ち止まった。
(あの地図によると星印の位置は、ここの筈なのだが....こんな所に一体、何があるというんだ?)
和希は、その大理石の像を見ながら僅かながらに、懐かしき日々を思い出す。
妹の凪沙は隠れんぼをした時、隠れん場所として、この像の後ろに隠れている事が多かった。
凪沙にとって、ここがお気に入りの隠れ場所であったかどうかは分からないが、少なくとも和希の妹たる凪沙は、見付かる事が分かっていながらも、そこに良く隠れていたのである。
(そういえば何で凪沙は、ここに隠れたがったんだろうな?)
ふと、和希の脳裏に平穏たる昔の記憶が過った。
その記憶とは妹の凪沙が、兄である和希に向けて良く言っていた言葉....。
「ここ歌が聞こえるんだよ、お兄ちゃん。」
そんな妹の言葉を、ふと思い返す。
昔は、そんなに深く考えていなかった凪沙の言葉....。
だが、今にして思えば、その言葉は大きな意味を秘めていたのだろう。
その意味とはーー。
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